第7章 ETFを巡るリスクや規制

取引所でトレードされるETFならではのリスク

これまでに説明してきたように、ETFはニューヨーク証券取引所などの取引所で普通株と同じような感覚で取引される上場型投資信託です。

そうである以上、株式のトレードの際に気をつけるべきポイントと、同じことをETFのトレードの際にも気を付ける必要があります。

個別株をトレードするときに気をつけるポイントが、ETFにもあてはまる

リスク分散には違いはないが……

まずETFを買うと、実際にはそのETFがなぞろうとしているS&P500指数などの沢山の銘柄から成るバスケットに投資したことになるので、ちゃんとリスクが分散できたような気になります。

それはそうに違いないのですが、個別株をこつこつと買い集めるのと、ETFひとつで済ませてしまうのでは根本的な違いがあります。

その違いとは、もしそのETFがなんらかの理由で、本来、つけてはいけない値段を付けてしまったら、不都合を生じるということです。

ETFの異常値に気を付けろ!

異常値の例

一例として2013年8月2日の取引で、マーケット・ベクトル・フォールン・エンジェルETF(ティッカーシンボル:ANGL)というETFに異常値が発生しました。下がそのチャートです。

abnormal

これはちょうどAsk、つまり売り物が切れたときに成り行き買いの注文が入り、とんでもない値段で売買が成立した例です。

このような失敗は、注目を入れる際、指値を指定することで避けることが出来ます。

いつも指値注文をすることで、思いもよらない値段で執行されることを防ぐことが出来る

また、そもそも普段から沢山の出来高があるポピュラーなETFでは、このようにBidやAskがスカスカになって、ヘンな値段がついてしまうリスクは極めて小さいです。

普段から出来高の多い、ポピュラーなETFをトレードしていれば、ヘンな値段が付くリスクは軽減できる

このことからも普段からポピュラーで、出来高の多いETFをトレードする習慣をつけることが重要であることがわかるでしょう。

自分の注文で気配を動かしてしまうリスク

これは個別株をトレードしている人でも気がつかない場合が多いのですが、自分がある銘柄に注文を入れたことが原因で、その銘柄の気配、つまり取引価格が動いてしまうことがあります。

このように自分で相場を動かしてしまう不利益を、インパクト・コスト(impact costs)といいます。

閑散とした人気薄のETFの場合、インパクト・コストには重々に気を付ける必要があります。

この点からも私なら出来高が多く、皆がトレードしている人気ETFを選びます。

普段から取引の閑散なETFを避けることで、インパクト・コストの不利益を避けることができる

Bid/Askのスプレッド

Bidとは、買い手が支払っても良いと考えている値段を指し、Askとは売り手がこの値段で処分しても良いと考えている値段を指します。

もしあなたが今、あるETFを買おうとしているのなら、幾らで買えるか? の目安となる値段はAsk、つまり売り手が幾らの値段を要求しているかを見れば良いです。

逆にあなたがETFを売ろうとしているのなら、幾らで売れるか? の目安になる値段はBidの値段になります。

このBidとAskの値(=それらを「気配」と言う場合があります)がかけ離れていると、有利にトレードを進めにくくなります。そのような投資対象は「スプレッドが大きい」と表現します。

Bid/Askのスプレッドが大きいETFは、避けた方が無難です。

Bid/Askのスプレッドが大きいETFは避けた方が無難

なぜならそのようなETFは、買うのに苦労するからです。自分がイメージしていたより、高いコストで買う羽目に陥りやすいです。

そのETFを次に処分する場合には、今度はスプレッドが大きいので自分が考えている値段よりずっと低い値段でしか売れないということになりがちです。

言い換えれば、買う時と売る時の両方、往復で不利なトレードを強いられるのです。

指数からの乖離(かいり)

普段から閑散として出来高も少ないETFは、往々にしてそのETFがなぞろうとしている株価指数などのベンチマークからのETF価格の乖離(かいり)が、放置されたままになってしまいます。

ETF価格の乖離が放置されたままの場合、自分がイメージした株価指数などのベンチマークの動き通りの動きをETFがしなくなるリスクがあります。

乖離が放置されるとETF価格がジブのイメージ通りに動かなくなる

乖離が放置される理由は、そのETFの出来高が少なく、サヤ取り業者がアービトラージをしにくいことから来る場合が多いです。サヤ取り業者がETFを売買することもETFの出来高にカウントされるわけですから、サヤ取り活動が不活発になるということは、さらに出来高が低迷する原因になります。このように「貧すれば鈍する」でダメなETFは誰からも顧みられなくなるわけです。

なお乖離は、ETFそのものがポピュラーかどうか? ということに加えて、その株価指数を構成する現物株のバスケットが、どのくらい取引コストが低いかにも影響されます。

一例として新興国株式は米国株よりも取引コストが高いです。サヤ取りをする際、その高い取引コストを考慮した上で、アービトラージを行うかどうか決断するわけです。このため新興国株式のETFは、S&P500をなぞるETFよりも普段から乖離が大きくなる傾向があります。

ETFと規制

ETFには「どの法律に基づいて設立されたか?」によっていろいろ種類があります。

現在、一番多いのは「1940年投資会社法」という米国の法律に準拠したETFです。この「1940年投資会社法」は投資信託を規制するために制定された法律です。投資家保護の観点から、一番厳格な法律だということが出来ると思います。

我々が普段、ETFの銘柄名を見る際、単に「○○ETF」という風な呼称であれば、その殆どが「1940年投資会社法」に基づいたETFと考えて良いと思います。それ以上の、余計な心配をする必要は無いということです。

「1940年投資会社法」に準拠したETFには、オープンエンド型投資会社とユニット型投資信託(UIT)の2種類があります。後者はETFが最初に考案された際に使われた構造であることは以前に説明しました。その最も有名な例はSPDR S&P500TrustETF(SPY)です。

ここでキーワードになるのはトラスト(Trust)という表現です。もし皆さんがこれからトレードしようと思っているETFが「トラスト」と銘打ってあるのであれば、それはたぶんユニット型投資信託(UIT)だと思います。

トラストの場合、微妙な違いがあるのですけれど、短期トレードをするにあたってはその差異は殆ど気にならないので、あまり気に掛ける必要は無いでしょう。

現在はUITではなく、オープンエンド型投資会社が主流になっています。実際、現在あるETFの、実に96%はオープンエンド型投資会社の形態を採っています。

さて上に紹介したのとは別に、「1933年証券法」に準拠したETFというのがあります。「1933年証券法」は上記の「1940年投資会社法」よりハードルが低いです。

「1933年証券法」に準拠したETFの中には、みなし自益信託(グランター・トラスト)やETN(エクスチェンジ・トレーデッド・ノーツ)などがあります。

みなし自益信託というのは、ややこしい言葉ですが、SPDR Gold Trust(GLD)のように、中身がゴールドだけ……といったようなコモディティETFに使われるスキームだと思ってください。これはS&P500のように多数の銘柄を保有するのではなく、ゴールドという一つの原資産だけが中身になっている関係で、オープンエンド型投資会社の定義にあてはまりにくいことから、こちらの法律を使っているだけのことです。

ゴールドに代表される、コモディティETFはグランター・トラストと呼ばれる仕組みに依拠している

同様にETNは何らかの理由で原資産を簡単に保有しにくい投資対象の場合、投資銀行などの仲介者が間に入り、スワップ契約などによりその投資対象のパフォーマンスをなぞるような取決めをする場合に使われるスキームです。

銘柄名が「○○ETF」ではなく、「○○ETN」となっている場合は、少し気をつける必要があります。なぜならそのETNが保有しているのは現物のバスケットではなく、スワップ契約の「紙切れ」だからです。

その好例がバークレイズ・アイパスMSCIインド・トータル・リターンインデックスETN(INP)です。インドは一般外国人投資家が個別企業の株を買う際には規制があります。そこで上記のようなスワップ契約で代用しているわけです。

この場合、契約の当事者となる金融機関が、もし倒産した場合、そのスワップ契約が履行されないリスクがあります。

ただ過去10年間でのETNのデフォルト率は0.1%以下でした。

このようにカウンター・パーティー(相手先)がデフォルトするリスクは、殆ど無視できるほど低いのですが、「ゼロでは無いです」ということを断っておきます。

「○○ETF」、「トラスト」、「○○ETN」など、その銘柄の呼称で、それがどういう法律に依拠したETFなのかが判る