人口12億人インドへの投資 〜アジアの超大国になる日は来るのか〜

(写真=PIXTA)

 世界的な低成長が続いている現在、人口大国である中国とインドに経済成長のけん引役が期待されています。これまでのところ、中国、インドともに高い成長率を維持していますが、両国の人口動態には明らかな違いがあります。

若年人口(15歳未満)と老齢人口(65歳以上)の合計が生産年齢人口(15歳以上、65歳未満)に占める割合のことを従属人口比率と呼びますが、この割合が低下していると経済成長にはプラス、上昇するとマイナスに働くとされており、それぞれ人口ボーナス期、人口オーナス(負担)期と称されています。

国連の推計によると、インドの人口ボーナス期は2040年まで続く見通しとなっており、豊富な若年層が今後とも経済成長を後押しすることが期待されています。一方、中国は少子高齢化に突入しており、既に人口オーナス期となっていることから、経済成長の減速が懸念されています。以下では、インドの魅力を紹介します。

■インドの経済成長は中国を抜いて世界最速に

インドの魅力としてまず挙げられるのが、経済成長率の高さです。IMF(国際通貨基金)によると、インドのGDP(国内総生産)の成長率は2016年が7.5%、2017年も7.5%と高い伸びが予想されています。一方、中国は2016年が6.5%、2017年は6.2%となっており、インドは中国を抜いて世界で最も高い成長が見込まれる国となっています。

高成長が見込まれる背景には、双子の赤字の改善があります。2009年度に6%台まで膨らんでいた財政赤字の対GDP比率が2015年度は3.9%にまで低下する見通しとなり、インド政府は2016年度に3.5%、2017年度には3.0%まで縮小させることを目標にしています。景気の拡大で税収が増加しているほか、金の輸入にかかる関税を引き上げたことや、原油価格の下落による燃料補助金の削減も財政健全化に寄与しました。

また、2012年には5%近辺まで拡大していた経常赤字の対GDP比率も、2015年は1%台にまで低下しています。ルピー安による輸出の拡大に加え、インドは原油の純輸入国であることから、原油安による恩恵も受けています。

■「双子の赤字」改善などが株価の追い風に

インドの株式市場は年初の急落から持ち直し、3月以降はおおむね堅調に推移しています。

2014年5月に発足したモディ政権への期待から、インドの株式市場は同年に大きく上昇しましたが、2015年に入ると改革の停滞から上昇が頭打ちとなり、同年後半には人民元の切り下げをきっかけとした新興国からの資本流出などが嫌気されて大きく値を崩しました。

世界的な株安を背景に、2016年に入っても下落が続いていましたが、原油価格の底入れなどで世界的に株価が切り返すと、歩調をあわせて回復しています。双子の赤字の改善に加え、インフレ率の低下、緩和的な金融政策などが株価の追い風となりそうです。

■インドルピーは下落基調から反転し、落ち着きを取り戻す

ここ数年、下落基調が続いているインドルピーですが、2016年1月に介入が実施されたこともあり、最近は落ち着きを取り戻しています。

双子の赤字や高いインフレ率などが嫌気され、2011年から2013年にかけてルピー安が進みましたが、同年9月に就任したインド準備銀行(中央銀行、RBI)のラジャン総裁が利上げに踏み切ったことなどから一旦は持ち直しました。しかし、その後は米金融政策の正常化の流れでドルが上昇したほか、2015年に入ると利下げを実施したこともあり、2016年年初まで下落トレンドが続きました。

今後は、インフレ率の低下や財政の健全化が評価されていることに加え、経常赤字も縮小していることから、底堅く推移するとみられています。

■低いインフレ率を背景に金融政策は緩和的なスタンスを継続

インドの金融政策は緩和的なスタンスが維持されています。通貨の安定のためには低いインフレ率が必要との考えから、2013年9月に約2年ぶりとなる利上げが実施され、その後も同年10月と2014年1月に金利が引き上げられました。

その後インフレ率が低下したことから、2015年2月から利下げが開始され2016年4月までの5回の利下げで政策金利は6.5%まで低下しています。3月の消費者物価指数は前年同月比で4.8%上昇と、物価目標となる4%プラスマイナス2%に収まっており、状況次第では追加緩和の可能性も残されています。

■モディノミクスの停滞がリスク

物価の安定と緩和的な金融政策により、引き続き高い成長が期待されているインドではありますが、リスクもあります。

まず挙げられるのが、政治的なリスクです。モディ政権が掲げる「モディノミクス」による経済改革は、上院で過半数を握る野党の反対を受けて税制改革などの関連法案を通すことができず、やや停滞していることは否めません。政府は州レベルでの改革に切り替えていますが、スピード感に欠けることから、改革の遅れが成長の足かせとなることが懸念されています。また、財政の健全化が進んでいますが、歳出も拡大しており、予算通りの税収を確保できるかどうかを不安視する声もあります。

このほか、インド経済は農業への依存度が比較的高く、モンスーンの影響を受けやすいことにも注意が必要でしょう。また、今後は公務員給与等の引き上げが見込まれており、物価を押し上げるのではないかと警戒されています。

最後に、これまでモディノミクスを支えてきたラジャンRBI総裁が2016年9月に3年の任期を迎えます。このまま退任するとの見方もあり、景気への影響が心配されています。