
今夜、正確には日本時間で6月16日午前3時、FOMC(連邦公開市場委員会)による政策金利の発表があります。結論からお伝えすると、今回のFOMCで政策金利は0.25%-0.50%の据え置きになると予想しています。
政策金利が据え置きなら、株式、ETF、為替、債券など金融市場への影響は少ないのではないかという意見もあると思いますが、仮に今回のFOMCで金融政策に変更がなかったとしても、注意しておくポイントがいくつかあります。
【ポイント1:声明文】
FOMCでは声明文が発表されます。この声明文、書式というか書き方の流れが決まっています。
「FOMC声明文」は、まず最初に
「前回○○月の連邦公開市場委員会以降に入手した情報は(Information received since the Federal Open Market Committee met in ○○)」
で始まります。
そして、米国の経済状況や雇用、消費、住宅、設備投資の状況と物価動向に触れ、最後に政策金利をどうするかと、それに賛成だったメンバー、反対だったメンバーが誰なのかという流れで記載されています。
このように「FOMC声明文」の書式は決まっているので、「FOMC声明文」で注目すべき点は、前回と今回の「FOMC声明文」で違う部分がどこかです。
特に、「①米国の景気動向をFEDがどう見ているのか」、「②利上げを示唆すると考えられる「堅調な速度(solid rate)」というキーワードが今回も記載されているのか」、「③金融政策に変更が無かった前回の投票結果9対1(反対はジョージ総裁のみ)に変化があるのかどうか」の3点には注目です。
6月3日の雇用統計は非農業部門雇用者数が前月比+3.8万人と市場予想の前月比+16万人よりも弱かったのですが、それでも米景気、雇用、物価に強気な見方をしていて、「solid rate」というキーワードがあり、且つ、前回の9対1から反対票が増えるようであれば、近い将来利上げはありそうだと考えられます。
逆に利上げがやや後ずれしそうだと思われるキーワードとしては、「ゆるやか(moderate)」、また、世界経済・政治の動向で、特にイギリスの国民投票の結果に言及するかどうかになります。
【ポイント2:経済・物価・金利見通し】
FOMCは年に8回、大体1.5カ月おきに開催され、今年は1月・3月・4月・6月・7月・9月・11月・12月というスケジュールになり、3月、6月、9月、12月のFOMCでは、「経済・物価・金利見通し」が発表されます。
これらの見通しの中では、特に「金利見通し」が重要です。
「金利見通し」は、現在のFOMCのメンバー17名(投票権のあるFOMCの理事5名と各地区連銀5名、投票権の無い地区連銀7名)が、2016年末、2017年末等、米国の政策金利が何%になっているべきかを示したものです。
各メンバーそれぞれの金利予想をチャートに示したものをドットチャートと言いますが、前回3月のドットチャートは以下のとおりで、中央値(上からも下からも9番目の人の数値)は0.875%となるため、現在の金利0.25%-0.50%の2つを足して2で除した0.375%に比べ0.5%高い数値でした。
3月のFOMCの時点では、1回あたり0.25%の利上げと考えると、今年2回の利上げが当時、FOMCのメンバーの総意だったということになります。
これが、今回のFOMCの「金利見通し」でどう変化するのかに注目です。
今回のFOMCで「金利見通し」の中央値が0.875%のままなのであれば年末までに2回、0.75%なら1回ないしは2回、0.625%なら1回、0.50%なら0回ないしは1回、0.375%であれば年内の利上げは無いと想像できます。
ただし、直近1ヵ月のFOMC理事、地区連銀総裁の発言内容をまとめると、今回の結果は、恐らく中央値が0.625から0.875で、利上げは2016年内で1回以上2回以内という内容になりそうです。
2016年FOMC投票権メンバーの直近の発言 | ||
ジャネット・イエレン FRB議長 | 6月6日 | 「中長期的な物価安定と最大限の持続可能な雇用を確保するため、フェデラルファンド(FF)金利は時間をかけて緩やかに上昇しなくてはならないだろうと、私は引き続き考えている」雇用統計の伸び「期待に及ばなかった」雇用統計で見られた明るい要素の一つとして平均時給の増加を挙げた。 |
スタンレー・フィッシャー FRB副議長 | 6月7日 | 米中戦略・経済対話 米金融当局は利上げを実施する見込みであり、「政策を透明かつ、可能な限り予想できるやり方で実行する」 |
ジェローム・パウエル 理事 | 5月27日 | 「かなり速やかに」引き上げるのが適切「今後入手するデータが引き続きこうした見通しを裏付けるならば、フェデラルファンド(FF)金利の段階的な引き上げを続けるのが適切だと思える」「データ、リスクの展開次第で、追加利上げはかなり速やかに行うのが適切かもしれない」 |
ダニエル・タルーロ 理事 | 6月2日 | テレビ番組のインタビュー「英国の欧州連合(EU)からの離脱問題について、14~15日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを判断する際に「検討する一つの要素」」「不確実な点が多い」「短期的には市場への直接的影響が懸念される」 |
ラエル・ブレイナード 理事 | 6月3日 | 米雇用統計は「厳しい内容」「こうした環境における賢明なリスク管理としては、国内活動が力強く持ち直したとの確信や近い将来の国際イベントが米金融当局の目標に向けた前進を妨げることはないとの確証を得るまで、追加のデータを待つことが有益になる」 |
ウィリアム・ダドリー NY連銀総裁 | 5月19日 | 「米経済は6月か7月の利上げを正当化するほど十分に力強い可能性がある」「われわれは(利上げに必要な)多くの条件を満たす軌道にある」「統計の内容次第だが、6月会合で行動を起こす可能性は確実にある」ただ、欧州連合(EU)離脱の是非を問う英国の国民投票の前後に市場が混乱する可能性があり、もう少し時間をかけて見極めるべきとする主要な要因となっている |
ロレッタ・メスター クリーブランド連銀総裁 | 6月6日 | 「利上げの時期や緩やかな道筋の勾配はデータ次第」「5月米雇用統計は期待外れの数字だったが、季節要因が大きく、ベライゾンのストも悪影響を及ぼした」「一つの統計からあまり多くのことは読み取れない」「経済は正しい方向に間違いなく進んでいる」「弱い雇用統計でも私の経済見通しは基本的に変化していない」 |
ジェームズ・ブラード セントルイス連銀総裁 | 6月6日 | 6月FOMCでの追加利上げについて「可能性が大きく低下したというのは理にかなった評価だ」「7月の利上げは依然として可能」「6月FOMCで結果が出るとは予想せず」「英国のEU離脱は問題となるが、著しい問題ではない」「良好な経済成長に後押しされた利上げが好ましい」 |
エリック・ローセングレン ボストン連銀総裁 | 6月6日 | 「米経済状況は今後も改善が続き、追加利上げが適切となるだろう」「5月の雇用統計の弱い数字が一時的なぶれかどうか見極めるのが重要」「今月14、15両日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では利上げを見送る公算が大きくなるが、他の兆候から判断すると、米金融当局は物価安定と完全雇用の実現という2つの責務を達成する方向にある」 |
エスター・ジョージ カンザスシティ連銀総裁 | 5月12日 | 「金利は正常水準へ徐々に上昇するべきだ」「現在の金利水準は、現在の経済状況からして低すぎる」 |
【ポイント3:イエレンFRB議長の定例記者会見】
「経済・物価・金利見通し」と同様、3月、6月、9月、12月のFOMCでは「イエレンFRB議長の定例記者会見」がおこなわれます。
この会見の中でのポイントは、今後どのようなペースでの利上げになるのか、それを示唆する内容があるのかどうかです。もちろん、具体的に「○月に利上げをしたい」ということは言いませんが、サプライズアタック的な利上げでマーケットに混乱が起きないよう、彼らは「マーケットとの対話」を重視しています。
そのため、もしFEDが7月の利上げを考えているのであれば、今回のFOMCはマーケットとの対話をおこなう最高の機会だと考えられ、それなりの「示唆」を与えるのではないでしょうか?
個人的には、「FEDは6月に利上げをしたかったのではないか」と見ています。ただ、6月3日の雇用統計が予想以上に悪かったため、今回の利上げは断念せざるを得ずといったところです。
イギリスのEU離脱が無いのであれば、FEDは7月のFOMCで利上げをおこなう蓋然性が高いと考えています。