日銀のETF買い入れについて知っておくと得する知識

日銀は2010年からETFの買い入れを開始しました。2013年4月4日には「量的・質的金融緩和」が始まり、日銀は年間買い入れ額を1兆円まで拡大。

その後も段階的に買い入れは拡大していき、2017年9月現在年間6兆規模での買い入れを行なっています。日銀の16年度決算によれば、保有するETFの時価は15.9兆円(今年3月末時点)にも登ります。これは東証1部の時価総額約600兆円の約3%程度を占めます。

今回は、なぜ日銀がこのようにETFを買い続けているのか?また、ETFの買い入れによるメリットとデメリット、そして今後への影響についても考察します。

1.日銀がETFを買い入れ続ける背景

日銀がETFを買い入れ続ける背景には、日銀の黒田東彦総裁が掲げた「消費者物価上昇率2%」という目標が関係してきます。

日銀は2013年4月4日に量的・質的金融緩和を実施してから、長期国債やREIT(不動産投資信託)など様々な金融資産を買い入れる金融緩和政策を実施してきました。

その金融緩和政策の一つが「ETFの買い入れ」なのです。つまり、ETFの買い入れは「消費者物価上昇率2%」の早期実現に必要な措置として実行されているのです。

2.日銀がETFを買い入れるメリットとは?

では、日銀がETFを買い入れることによって、どのようなメリットがあるのでしょうか?

ETFを買い入れることには、次の4つのメリットがあると考えられます。

  1. 日経平均株価上昇による資産効果
  2. インフレ過剰の際、ETFはその冷却材となる
  3. ETF認知度の向上
  4. 安定銘柄の選別

2-1. 日経平均株価上昇による資産効果

日銀がETFを買い入れると、そのETFを構成する現物株の株価が上昇します。日銀の狙いは、ETFを購入することにより株価を上昇させ、資産効果を得ることです。資産効果とは、資産価格の上昇が投資や消費の活性化につながる効果のことを言います。投資や消費が活性化すれば、物価は上昇します。

政府の目標は「物価上昇率2%」なので、ETFの購入によってその目標に一歩近づく効果を得られるのです。

2-2. インフレ過剰の際、ETFはその冷却材となる

もし、政府が「物価上昇率2%」を達成できたと仮定します。目標は達成されましたが、その後インフレがさらに加速することも懸念されます。もしインフレターゲットの達成後もインフレが加速した場合、日銀は買い入れたETFを売却することによって、通貨供給量を下げることができます。

このように日銀のETF買い入れは、インフレ過剰の際の冷却座としての役割も果たすと考えられます。

2-3.ETF認知度の向上

日本国内においてETFはまだ認知度が低いのが現状です。しかしながら、国内のETFの純資産残高は右肩上がりに向上しています。

(引用:ETF.ETN Annual Report 2016 – JPX

これには日銀によるETF買い入れによる影響が大きいと考えられます。

また、金融庁もETFに対しては前向きな姿勢をとっており、「少額から分散投資を行える上に、透明性が高いこと」「同種の投資信託よりこコスト面で非常に優れていること」という点から、国民の安定的な資産形成を行うための長期の積立・分散投資に適した商品としてETFを高く評価しています。実際これらのことは、ETF認知度の向上に多大な貢献をしたと考えられます。

しかしながら、日本のETFの主体者別保有割合は8割以上が金融機関をなっており、偏りが見られるのも現状です。現在、個人の保有率は7%前後にとどまっています。ETF市場のさらなる拡大には、個人投資家の参入もより必要となってくるでしょう。

2-4.安定銘柄の選別

日銀が購入しているETFやそのETFに組み込まれている銘柄は、いわば日銀がお墨付きを与えたということになります。そのために、個人投資家にとっては急な値下がりを気にせず投資できる銘柄と言えるかもしれません。

少なくとも日銀黒田総裁が任期を終える2018年4月までは、大きな価格変動が起こる可能性は低いと考えられます。

3.日銀によるETF買い入れのデメリット

「消費者物価上昇率2%」の早期実現に必要な措置として実行されているETFの買い入れですが、デメリットはないのでしょうか?

主には次の2点がデメリットとして考えられます。

  • 流動性の低下による価格変動幅の拡大
  • 企業統治(コンポートガバナンス)に歪みが生じる

3-1.流動性の低下による価格変動の拡大

現在、日銀のETF保有残高は推定17兆円を超えています。これにより考えられるリスクは、流動性の低下です。日銀がETFを購入することによって、多くの銘柄で日銀が大一頭株主となる可能性があります。

現在、日銀はETFを売却していないので、購入銘柄の流動性は低下します。市場での流動性は株価やリターンに影響を与えると考えられています。

流動性の低下により日銀保有比率が大きい銘柄や浮動株が少ない銘柄の価格下落につながることが懸念されます。

3-2.企業統治(コンポートガバナンス)に歪みが生じる

日銀が大株主となってしまうことによる企業統治(コンポートガバナンス)に歪みが生じることが懸念されます。株主は、企業に対して意見と進言し、経営者の独断により暴走を牽制する権利を有します。しかし、日銀が大株主となってしまうことにより、経営者に対して意見を言える人が減り、ワンマン企業となってしまう恐れがあります。企業統治の歪みが生じ、本来あるべき経営の姿が実現されない懸念があります。

このように、日銀によるETFの買い入れにはメリットこそありますが、懸念されているリスクもあるのです。ここで挙げたもの意外にも、様々な懸念がなされています。

4.日銀によるETFの買い入れ額の推移と予測

ここで、日銀による買い入れ額の推移を見ておきましょう。

日銀は2010年12月から金融緩和政策の一つとしてETFの買い入れをスタートしました。当初の買い入れ額は約4500億円を限度としていましたが、その後買い入れ額は段階的に拡大していきました。2016年7月の「金融緩和の強化」でETFの年間購入額は年3.3兆円から年6兆円に大幅拡大されました。

また、今まではTOPIX、日経平均株価、JPX日経400の時価総額に応じてETFの購入比率を決めていましたが、同年9月の「超短期金利操作つき量的・質的緩和政策」では、TOPIXの購入比率を7割強に拡大しました。(これには、日銀の保有銘柄を分散させる意図があったと考えられる。)

ちなみに、このまま年間6兆円のペースで買い入れを続けた場合、あと2年ほどで保有額は約30兆円に達すると考えられています。

5.日銀によるETFの買い入れは効果があったのか?

そもそも日銀によるETFの買い入れは効果があったのでしょうか?当初の目的である「物価上昇率2%」には程遠いのが現実です。その為に、本来の目的は達成できていないと考えるのが妥当でしょう。

 しかしながら、民主党政権が終わり自民党政権に再起した当時、8600円程度だった日経平均株価は現在2万円台を超える復活を遂げました。

多くは円安と企業努力によるものですが、ETFの買い入れが後押ししたことも考えられます。日銀による買い支えが安心感を生み出し、株価の大きな下落を抑えているのです。

6.今後着目すべき点は?

日銀は買い入れたETFを一度も売却していません。

しかしながら、将来的に日銀が保有しているETFが売られる可能性は十分に考えられます。日銀の黒田総裁の任期が終わるまでは、売却するという可能性は低いですが、売却はないと断定することはできません。今後とも日銀の「購入額」と「買い方」の変化に注目しながら、予測を立てておきましょう。

日銀がETFの購入額をまた変化させる可能性は十分に考えられます。 

ちなみに、次の日銀の行動は全て金融政策決定会合(毎月1〜2回開催)で決まります。金融政策決定会合での報告や日銀が発信するメッセージ、金融政策の変化などにはしっかり注目しておきましょう。