今回の下げ局面が今迄と違う点

■先週金曜日から下げ局面に入った

米国株式市場は9月9日(金)から下げ局面に入っています。

S&P500指数

今回の下げ局面は今迄と少し違う印象があります。

普通なら株式市場が軟調になれば、投資資金は債券へ避難するのが常でした。

ところが今回の下げでは株だけではなく、債券も、ゴールドも、原油も、全て売られています。この「逃げ場が無い下げ」が今回の特徴なのです。

■欧州の債券市場に端を発する下落相場

実際、今回の下げの直接のきっかけになったのは先週の欧州中央銀行(ECB)の政策金利会合で、何も新しいことが出なかったことに対する落胆が引き金だったと思います。9月8日(木)の時点でドイツ10年債の利回りは-0.059%でした。つまりこのところのマイナス金利の状態が、この時点まで続いていたわけです。

しかし9月9日(金)になるとドイツ10年債の利回りが0.00%に戻ってきました。この「もはやマイナス金利ではない!」ということがアメリカ市場に伝わると、とたんに米国の投資家にも不安が走りました。結局、9月9日のドイツ10年債の利回りは0.013%で、9月13日(火)にはそれが0.077%にまで上昇しています。

■米国の投資家が欧州の金利に注目するわけ

なぜドイツの金利に米国の投資家が注目するか? といえば、それは「欧州や日本ではマイナス金利になっている。すると外国の投資家は少しでも利回り的に有利な投資先を求めて米国債を買わざるをえない」という認識が、広く米国の市場参加者に共有されているからです。

しかしドイツ10年債がプラス金利に戻ったことで「これまでアメリカに流れ込んできた投資資金の逆流がおこるのではないか?」という不安が出たわけです。

その結果、米国の10年債の利回りも、このところスルスル上昇(=価格は下落)しています。

米国10年債利回り(%、セントルイスFRB)

■株式市場は、なぜ債券市場を気にするか?

現在、株価収益率(PER)に見る米国の株式市場のバリュエーションは、過去10年間で最も割高になっています。それでも米国の市場参加者が無理してアメリカ株を買い進んできた背景には(市中金利が低い局面では高いバリュエーションも正当化できる)という考えがあったからです。

つまり米国株の強気相場は債券市場の堅調に支えられてきたというわけです。

この大前提が、いまグラグラしはじめたのです。

このところ株式市場のボラティリティ(=相場の「荒れ」のこと)がにわかに高まっているのは、そういう理由によります。

■債券が売られたのは経済に対する見方が変わったからではない

なお今回の債券市場の崩れは、インフレに対する市場参加者の見方に大きな変化が出たからでは無いと思います。

市場参加者がインフレに対してどういう展望を持っているか? ということを知るには、5年先5年物期待インフレ率を見るのが便利です。これは「いまから5年先を起点として、そこから先の5年間のインフレの期待」を表します。このチャートを、ひとつ前のチャートと見比べてください。

5年先5年物期待インフレ率(%、セントルイスFRB)

こちらのチャートの方が、直近のインフレ率の跳ね上がりが小さいことがわかります。

このことからも今回の債券安は経済の見通しに関する投資家の意見が変わったというよりも、これまで勢いに任せて米国の債券市場に流入してきたモメンタム系の資金が逆流したとみるべきだと思います。