
英国が正式にEU離脱手続きを来年3月から開始
英国のテリーザ・メイ首相が来年3月から英国が正式にEUを離脱する手続きを開始すると発表しました。これは6月23日に実施された国民投票で英国民が離脱を支持したことに基づく決定です。
英国としては2年間の猶予期間の間に世界の各国と個別の二国間貿易協定を結び、EU離脱後も円滑に貿易が行われるようにしなければいけません。
しかしタイミングとしては英国が有利に交渉を運ぶにはあまり良くないと言わざるを得ません。
なぜなら、いまは世界に「アンチ貿易」の風潮が蔓延しているからです。またドイツでは来年、連邦議会選挙が控えており、英国に対する風当たりは強くなることが予想されます。
このような環境の中で、英国の離脱が「ハードな離脱」、すなわち軟着陸ではなく、「ガツン!」とショックを伴うような、乱暴な離脱になるのではないか? という不安が出ています。ポンドが軟調になっているのはそのような理由によります。
ドイツ銀行問題
折から欧州ではドイツ銀行の経営危機が話題になっています。ドイツ銀行のバランスシートは、実は世間で言われているほど危険な状態ではありません。
実際、リスク加重総資産に対するティアワン・コモン・エクイティー・レシオでは、ドイツ銀行は世界のメガバンクの平均より強固なバランスシートをしています。
しかしドイツ銀行は投資銀行部門の報酬に占める固定サラリーの部分が約7割と他社に比べて高く、業績が悪いときも人件費の圧縮により調節しにくい構造になっています。
それがドイツ銀行の慢性的な低収益構造につながっているのです。
米司法省の罰金について
たまたまドイツ銀行のバランスシートに対して不安が出ているときに、米司法省が住宅抵当証券の強引な販売に関する投資銀行各社に対する罰金の交渉を進めているというニュースが入ってきました。米司法省がドイツ銀行に提示した最初の金額は140億ドルと巨額でした。これが投資家の不安を煽っているのです。
ここで我々が理解しておかなければいけないことは、米銀各行と司法省は、既に交渉を終えており、順番として話し合いが欧州の金融機関に回ってきているという点です。言い換えれば、同様の罰金を、ドイツ銀行だけでなく、他の欧州の銀行も、これから交渉し、支払う必要があるということです。
欧州経済の低迷で貸付が伸びず苦しんでいる折、これは欧州の銀行各行にとって苦しい負担です。これでは「守りの経営」にならざるを得ません。
実際、ドイツ銀行のライバルのコメルツ銀行は、先週、大きな人員削減を発表しています。
ロンドンの金融街の未来
そこで問題になるのが英国で最大の産業セクターである金融業、もっといえば「シティ」と呼ばれる、ロンドンの金融街の未来です。
ロンドンはニューヨークと並ぶ世界の金融センターですが、その中身をみると為替ディーリングと金利トレーディングに強いことがわかります。
実は為替や債券のトレーディングのビジネスはHFT(高速トレーディング)の導入で、いま急速に利幅が縮小しています。ドイツ銀行が近年、苦戦している一因は、それらのビジネスに注力しすぎたことによります。
つまり欧州の金融機関は構造的に儲からなくなってしまったこれらのビジネスから撤退を迫られているわけです。
ちょうどそのタイミングで英国のEU離脱が始まってしまったので、ロンドンの金融街にある彼らの拠点は、(この際、バッサリと縮小してしまおう)という気持ちが働きやすいのです。