M&Aブームで心配される信用サイクルの暗転

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相次ぐ大型ディールの発表

先週金曜日、ブリティッシュ・アメリカン・タバコがレイノルズ・アメリカンの57.8%株式を470億ドルで買収すると発表しました。

同じ日、AT&Tがタイム・ワーナーの買収を検討していると伝えられました。土曜日にAT&Tがこの噂を肯定し、800億ドルを支払うと発表しました。

金曜日には、この他にも、ハンドバッグのコーチが投資銀行を起用し、バーバリーの買収を検討しているという観測が流れました。

降って湧いたような大型ディールのラッシュで、米国の株式市場は、まるで1989年のLBOブームか、2000年のドットコム・バブルのような熱気に包まれました。

 

あと2段階でジャンクに落ちるAT&Tの社債

しかしこうしたウキウキ・ムードに水を差す指摘もあります。

一例としてAT&Tの社債はいちおう投資適格ですが、あと2段階レーティングが引き下げられるとジャンク債になります。今回のタイム・ワーナー買収が、その引き金になることを心配する市場関係者も居ます。

 

バブルとは?

いまバブルとは「借り入れたお金で資産を買うことによる資産価格の高騰」と定義されます。すると上に書いたような事例は、借りたお金でターゲット企業の株価を吊り上げながら買収しているわけだから、「これはバブルの兆候である」と見なすべきなのかもしれません。

 

社債発行ブーム

そこで先ず検証したいのは「過剰な借り入れが行われているか?」ということです。社債発行市場は下のグラフのように活況です。リーマン・ショックの前、つまり2007年の水準を上回っています。

米国の社債発行額

いまのところ借り入れの質は高いです。

 

ECBが発行体のモラルハザードになっている

なお社債の発行は米国だけでなく、欧州市場でも活発です。

その理由は欧州中央銀行(ECB)が量的緩和政策(QE)の一環として、社債も買い入れ対象としてOKしたからです。

別の言い方をすれば、企業は(仮に需要が弱くても、かならずECBに買って貰える)という読みがあるので、安心して社債発行の決断を下しているというわけです。

これは見方によれば「ECBが発行体のモラルハザードになっている」と判断することもできるでしょう。

 

デフォルト率は上昇

次にデフォルト率を見ると、最近、上昇しています。

米国のデフォルト率

これは2014年秋以降の原油価格の下落でシェール企業のデフォルトが増えたことが原因です。その後、原油価格には底入れの兆候が見られるため(シェール企業の危機は、ひと山越えた)という見方が広まっています。

 

ディストレスト・レシオは若干改善

そのことは下のディストレスト・レシオにも表れています。これはトレジャリーより1000ベーシス・ポイント以上高い利回りになってしまっている(=逆に言えば社債価格は下落)イシューの比率を示しています。

メリルリンチ・ハイイールド指数ディストレスト・レシオ

直近では、原油価格上昇で、少し改善が見られます。

 

しかし、信用のトレンドは、いずれのチャートを見ても、大きなナベ底をつけた後、だんだん反転(=悪化)していることがわかります。

 

FRBの金利政策の失敗

あまり長い間、経済の実勢に比べて政策金利が低すぎる水準に保たれていると、(どうせ金利は安いのだから、この際、借金して他企業を買収しよう)という横着な考えが蔓延しはじめます。

その意味では、先週米国市場で見られたウキウキしたM&Aラッシュは、連邦準備制度理事会(FRB)が手綱さばきを誤ったことの証しだと言えるでしょう。

これまでFRBは「バブルの兆候は、どこにも見られない」と主張してきました。でも今後は、そう主張するのが、だんだん困難になると思います。

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