「トランプ減税」が「最初の100日」の目玉に

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減税が「最初の100日」の目玉に

ドナルド・トランプ次期大統領は120日の大統領就任式を前に閣僚の人選などを行っています。
これまでのワシントンDCにおける動きから、どうやら「トランプ減税」が大統領就任後「最初の100日」の目玉になると思われます。
今日は市場関係者がなぜそう考えているのか? について書きます。

 

トランプ政権のトップ人事

トランプは首席補佐官にラインス・プリーバスを指名しました。彼は共和党全国委員長を長く務めた人で、物腰がやわらかく、共和党員から好かれています。
しかもプリーバスはポール・ライアン下院委員長と同郷であり、親友です。

 

なぜポール・ライアンとうまくやる必要がある?

トランプが大統領選挙戦を戦っている間、トランプとライアンは反目し合いました。トランプはライアンのことを「あいつは使えない奴だ」と批判しました。ライアンの方もトランプが大統領にふさわしくない言動をしていることを批判しました。

このように二人の関係がギスギスしていたので、トランプ勝利が伝えられるとライアンの去就が注目されました。

しかしトランプは、税制改革を彼が大統領就任後真っ先に取り組む仕事としてシグナルしました。

もしトランプが減税法案を成立させようとするなら、ポール・ライアンの協力は絶対に必要となります。
なぜなら、アメリカ連邦政府の予算や税金に関する法案は、下院が起草することと憲法で決められているからです。

起草作業においては下院歳入委員会(House Ways and Means Committee)が重要な役割を果たします。

 

下院歳入委員会は、数ある下院の委員会のうち、最もプレステージのある委員会であり、ポール・ライアンは長くその委員長を務めました。言い換えれば、法案を成立させるためには「どのボタンを押せばよいか?」を熟知しているわけです。

現在、ポール・ライアンは下院委員長(Speaker of the House)、すなわち下院全体のリーダーという要職についています。

もっとわかりやすい説明の仕方をすれば、トランプは首席補佐官にライアンの親友であるプリーバスを指名することでライアンと仲直りすることをシグナルしたというわけです。

 

株式の投資家は減税が大好き!

株式の投資家は減税が大好きです。

すでにタタキ台が用意されている「下院案」とトランプが選挙期間中に示した「トランプ案」は、大筋では似たり寄ったりです。

まず両案ともに現行7段階になっている税率を、3段階(12%、25%、33%)に簡素化することを提唱しています。

現在の最高税率は39.6%なので、新しい税率は裕福層に有利です。

実際、シンクタンク、租税政策センター(Tax Policy Center)は、上位0.1%の富豪層の場合、税金が14%も少なくなると試算しています。この部分こそが株式の投資家をウキウキした気分にさせている箇所です。

 

他の公約は、後回し

下院は、一度にひとつの事しか出来ません。しかも税制改革はとてつもなく大きな案件です。その審議が始まると、下院の「酸素を全部吸い上げてしまい」他の議案は何も動かなくなってしまいます。

だからメキシコとの国境に柵を作るとか、貿易問題とか、オバマケアを葬り去るとか、インフラストラクチャ建設とかの議案は、後回しにならざるを得ないのです。

下院議員は、とにかく、2年後の中間選挙までに実績を作らなければいけません。だから税制改革議論で、大いに「パフォーマンス」し、自分の働きをアピールする必要があるのです。だから他のことはもう眼中にないはずです。

 

トランプ大統領の腕の見せ所

トランプは、まったく政治経験ゼロのアウトサイダーとしてホワイトハウスに入ります。しかし税制改革は、トランプが良いスタートを切れる絶好のチャンスを彼に与えます。

なぜならこの法案を「ああでもない、こうでもない」と議論する過程で、議会とのリレーションシップを築き、相手の弱みを知り、トランプが下院のいろいろな委員会に対して影響力を行使するキッカケを得る貴重な機会だからです。

色んな議員が、入れ代わり立ち代わりホワイトハウスにトランプを訪ね、自分の利害や考えを大統領に伝えるでしょう。トランプは彼らの話に耳を傾けながら、ギブ・アンド・テイクの取引について思いを巡らせることが出来るのです。

つまり税制改革法案は、爆速で成立させた方が良いという性格のものではないということです。今回の税制改革は、すでにタタキ台となる法案が出来上がっているので、急転直下で成立する可能性は、常にあります。しかし折角、トランプが影響力を行使できる良い機会なので、ある程度、じっくりやると私は考えています。

 

「下院案」と「トランプ案」

「下院案」と「トランプ案」は、大筋では似通っています。前述のように税率を7段階から3段階に簡素化するという部分は両者に共通するポイントです。

さらに「オバマケアの原資とするため、投資から得られる収入に3.8%の上乗せ税を課す」という現在の規定も廃止すべきだ! という点で、意見が一致しています。

加えて定額控除額を引き上げる(=減税効果があります)という点でも両案は同意見です。

相違点としては、トランプ案はヘッジファンドのキャリード・インタレストに関し、税率が低いキャピタルゲイン課税扱い(23.8%~)とするのではなく、所得税(33%)の税率を当てはめることを提唱しています。これに対し下院案は現行のままを主張しています。

もうひとつの相違点として、下院案はキャピタルゲイン税に関し税率のカットを提案しています。個人の納税者のキャピタルゲインについては、所得税率の半分、すなわち6%、12.5%、16.5%のどれかを当てはめることを提唱しています。

法人税(現行35%)に関しては、トランプ案は一律15%、下院案は一律20%を提唱しています。

これらの相違点を巡って駆け引きしながら歩み寄る……それが今後予想されることです。

 

立法のプロセス

さて、実際の立法のプロセスですが、法案はまず下院で審議された後、投票に付されます。必要数は「過半数(majority)」です。下院の場合、Voice vote、つまり議員が口ぐちに「aye!」、「No!」と叫ぶ方法で採決を取ります。

法案が楽勝で通過しそうなときは、一斉に声をあげ採決します。僅差が予想されるときは念のため、各議員の声を録音します。また起立、着席によって投票する場合もあります。

こうして法案が下院を通過したら、それは次に上院に回されます。上院も基本はVoice voteで、賛成なら「yea」、反対なら「nay」と言います。

それで過半数に達したら、最後は大統領が批准、署名ということになります。もちろん、大統領はそれを突き返すことが出来ます。

突き返された法案を、議会が復活させたいときだけ3分の2の賛成を必要とします。

今回は下院、上院、大統領すべて共和党なので、下院と上院を通過した法案が大統領によって拒否される可能性は、とても低いです。

マネーハッチ