
11月30日のOPEC総会に注目
石油輸出国機構(OPEC)の総会が11月30日に開催されます。これに先立ち、減産に関するニュースがちらほらと出ています。
OPEC各国の思惑には大きな隔たりがあり、減産合意にこぎつけるのは容易ではありませんが、その反面、歩み寄りがあったという報道もされています。
そこで今日はOPECの減産の可能性について書きます。
OPECの目指すところ
まずOPECは「各国が4.0~4.4%の削減を目指す」ということで大筋合意しています。
現在のOPECの生産高は1日あたり3,364万バレルです。するとOPEC全体として134~148万バレル削減するということになります。
仮にそれが実現したとして、どの程度原油価格は上昇するのでしょうか?
原油市場は、OPECだけで動いているわけでは無く、アメリカのシェール業者の動向も価格に影響してきますし、価格変動が原油の需要に与える影響なども考慮しなくてはなりません。
つまり変数が多すぎるので、正確な予想はムリだということです。
ただ、ひとつの目安として国際通貨基金(IMF)によると「90万バレルの減産があった場合、最大で原油価格は+18%上昇する」としています。
現在の原油価格(47.9ドル)にそれを当てはめれば、56.5ドルというわけです。
今回、OPECが目指しているのは、IMFの試算で使用された「90万バレルの減産」というシナリオより、もう一段、踏み込んだ削減ですので、原油価格は60ドル付近まで上がる可能性もあるでしょう。
意見対立
ただ、現状では、イラン、イラク、インドネシアの各国が不満を表明しています。
このうち生産高の面で重要なのはイランとイラクの両国です。
この二つの国は、実は最近、もっとも増産した国でもあります。
イランは経済制裁がようやく解かれたので、キャッチアップするために増産中です。
イラクはISとの戦いを続けており、戦費調達へのプレッシャーがあります。
こうした特殊事情から、他のメンバーは(しょうがないな)と大目に見る一方で、目に余る増産が全体の足並みを乱していることも否定できません。
現在、イランは1日あたり369万バレル生産しています。8月にOPECが減産交渉を開始した際に比べると4万バレル増えています。イランの減産割り当ては14.7~16.2万バレルだと思われます。
一方、イラクは1日あたり456万バレル生産しています。8月の時点からは19万バレル増えてしまっています。イラクの減産割り当ては18.2~20.0万バレルだと思われます。
するとイラクの場合、話し合いを開始した時点からこんにちまでにすでに19万バレルも増産しているわけだから、今回18.2~20.0万バレル減産に合意したところで、「これは8月の水準に戻っただけじゃないか!」という批判があるわけです。
言い直せば、いまもめているのは、減産の基準を、どこに置くか? という点です。
11月21・22日にウイーンで行われた実務担当者レベルでの話し合いは、物別れに終わりました。
従って11月30日のOPEC総会で、もう一度、最後に交渉してみて、土壇場で合意に達することが出来るか、やってみる……そういう状況になっているのです。
歩み寄り
強いて言えば、OPECメンバーには歩み寄りの兆しが見えています。
その一因は、トランプ新大統領の閣僚人事が、中東諸国にとって強硬派揃いであり、OPECメンバーをして(仲たがいばかりしてないで、団結した方が良いかな?)という危機感を抱かせているからです。
今度CIA長官に指名されたマイク・ポンペオ氏はイランの経済制裁解除を決めた「六か国核合意文書」に強硬に反対しています。
さらにアメリカ国連大使に指名されたニッキー・ヘイリー氏も「六か国核合意文書」反対派です。
アメリカ企業は、経済制裁が解除された現在でもイランとの取引を再開していません。これはアメリカの様々な国内法や規制の影響です。(2017年からいよいよビジネスを再開できるかな?)と思っていた矢先に、このようなタカ派の人事が発表されたので、実業界は尻込みしているわけです。
イランの場合、1979年のイラン革命以降、ずっと石油産業への投資を怠ってきたので、石油の探索、生産、精製の全ての面で大掛かりな投資が必要となっています。上のような事情で、アメリカの石油産業の協力が得られなくなると、設備を更新することができず、生産もこれ以上伸ばすことは難しくなります。
イランが減産に傾いているのは、このような事情にもよります。
新しい「冷戦」?
今回、国家安全保障補佐官に任命されたマイケル・フリン氏は、イスラム過激派に対し、ちょうどアメリカが冷戦時にソ連と対峙したときのように、アメリカの全てのリソースを動員し、何世代にも渡って長期戦でこれを根絶してゆく決意を持たなければいけないと主張しています。
そしてイスラム過激派に「隠れ家」を提供する全ての国家に対し厳しく接し、「隠れ家」を作らせないことを提唱しています。
さらにイスラム過激派に対し、ちょうど共産主義に対してアメリカがそうしたように、イデオロギー面での戦争をしかけるべきだと主張しています。
イスラム過激派を共産主義に喩えるのは、対立のエスカレートだと受け止めるOPECメンバーが多かったです。
こうしたことからOPEC側も「我々も、なにか切り札を持たなければいけない」と感じ始めています。
11月30日までに何とか話をまとめようという機運がOPEC側で高まっているのは、そのような事情によります。