原油価格急上昇の背景

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原油価格が急上昇

このところ原油価格が急上昇しています。

2015年の春、原油価格は62ドル付近でしばらく揉み合い、結局、反落しました。その関係で、62ドル付近には上値抵抗があると思われていたのですが、年初からの強い動きで、あっさりとその水準を上回りました。 

なぜ原油価格は上昇しているのでしょうか?

好調な世界経済

現在、は世界同時好景気となっています。これはごく普通のように思われるかもしれませんが、実は世界が同時に好景気を謳歌するというのは稀です。

 景気が良いとき、ガソリンやその他の石油製品の消費は増えます。したがって、現在の原油価格の上昇の第一番目の理由は、そもそも世界経済が好調で需要が強いからです。

石油輸出国機構の生産調整

つぎに石油輸出国機構(OPEC)は原油価格維持のため、現在生産調整を行っています。実際、去年の暮れに、現行の生産調整をもう一年延長することが決まりました。これまでのところ、各国はその取決めを守っているようです。これが需給の改善に一役買いました。

シェール業者周辺の変化

さらに米国のシェール業者の周辺に微妙ながら変化が出ています。具体的には去年、テキサスのパーミアンで操業しているシェール企業の一部で、新しい油井からの生産が期待を下回り、もたつくという事が相次いで起こりました。 

シェール開発は多額のコストがかかるため、シェール業者は資本市場からの資金調達に依存しています。

しかしウォール街はシェール業者がモタモタしているのを見て、「成長ばかり追求しているのではなく、資本を温存し、債務の返済を優先して欲しい」ということを経営者に要求し始めました。

 そこでシェール業者の中には、これまでのアグレッシブな生産計画を見直す業者が増えてきたのです。

横ばいのリグカウント

その関係で、オイル・リグカウント(青)は、横ばいとなっており、方向感に欠ける展開となっています。

言い換えれば、これまでのように「原油価格が上昇すれば、稼働リグ数もそれに応じて増加し供給過剰を招く」というお定まりのコースが、今回は見られていないのです。

バックワーデーション

もうすこし細かく原油先物価格を観察すれば、期近のコントラクトの価格が高く、期先のコントラクトの価格が安い状況になっています。これは「バックワーデーション」と呼ばれる現象です。

これは何かの突発的な要因を予期して、投資家が期近のコントラクトに高い値段を払っていることを示唆し、「異常なケース」と考えて良いです。 

現在、原油トレーダーが期近のコントラクトに高い値段を払っている理由は、足下の原油の在庫がかなり少なくなっており、何かの拍子で供給が止まるとビジネスに支障が出ることを心配しているからだと言う風に説明できるでしょう。

シェール業者が増産すると決めてから実際に生産に移るまでには数カ月を要するので、将来の生産分のヘッジを有効に行うためには、ちょうど生産を開始した頃のコントラクトを売りつなぐことでヘッジする必要があります。

しかし二つ上の原油先物価格のチャートをもう一度見て欲しいのですが、期先のコントラクトの価格は、それほど上がっていません。これはシェール業者が、それほど有利な値段でヘッジできないことを示唆しています。つまり現在、原油価格がスルスル上昇しているにもかかわらず、シェール業者が増産に消極的なのは、このような理由によります。