仮想通貨がメジャーになるのは長い道のり ビットコインETFと議会公聴会の話題を整理する

ETF GateWayでビットコインに言及する理由

ETF GateWayでは主にETF周辺の話題を取り上げています。

そのETF GateWayで私がビットコインに言及する理由は、最近、「ビットコインETFが近く承認されるのではないか?」という噂が絶えないからです。

ビットコインETFの上場は仮想通貨がメジャーになる「最も近道」と言えるでしょう。

なぜならビットコインETFが許可されれば、仮想通貨は機関投資家のマネーを取り込むことが出来るようになるからです。

先日、世界最大の機関投資家であり、ETFでもリーダーのブラックロックが「ビットコインETFの申請準備に入ったのではないか?」という報道がありました。これを受けてビットコイン価格が急騰しました。 

しかし、これはブラックロックのラリー・フィンクCEOによって否定されました。 否定はされたものの、この問題は大変興味深いトピックであり、引き続き今後も何度となく蒸し返されることは間違いありません。

そこで今日はこの話題を取り上げます。

先日の噂は、何だったのか?

先日、6.3兆ドルを運用している世界最大の資産運用会社、ブラックロックが「ビットコインETF上場プロジェクト・チームを組成したのでは?」と複数の報道機関が報じました。

この報道が、たまたま同社の決算発表日と重なったため、(決算カンファレンスコールでビットコインETFに関し言及があるのではないか?)という期待を投資家が持ちました。

結論から言えば決算カンファレンスコールではビットコインETFに関して言及はありませんでした。

またラリー・フィンクCEOはテレビのインタビューに応えて、「わが社のいろいろな部署の有志が、仮想通貨研究会みたいなカタチで連絡を取り合えるようにしているけど、この手のスタディー・グループは、新しい命題が出る度ごとに行っているごく自然な対応であって、具体的なプロジェクトは動いてない。だいいちわが社の顧客からビットコインETFを出してくれという要望はゼロだ」と述べました。

ビットコインETFの話題はなぜ何度も蒸し返される?

ビットコインETFに関しては、過去にも色んな運用会社が米国証券取引委員会(SEC)に上場を申請し、却下されてきました。もう投資家も懲りているだろうと思っても、なかなかこの話題に対する投資家の期待は消えません。

その理由を説明します。

いま世界の仮想通貨の時価総額は2953億ドルです。これに対して世界の株式市場は83兆ドル、債券市場は96兆ドル、ETFは5兆ドルの時価総額があります。だから株や債券に投資されているカネのごく一部が仮想通貨に流れるだけで、大きな新規の需要が生まれるというわけです。

フィデューシャリー・デューティーについて

株式や債券は主に年金、ソブリン・ウエルス・ファンド、投信投資顧問会社などの機関投資家によって保有されています。

機関投資家はフィデューシャリー・デューティーと呼ばれる顧客本位の運用をする原則に縛られています。そして「顧客本位の運用をしているか?」の判断基準のひとつが、ちゃんとSECに登録され、しかも連邦政府公認の取引所に上場されている有価証券に投資しているか? ということです。

たとえばビットコインETFがニューヨーク証券取引所に上場される場合、当然、これらの要件を満たします。

ビットコインETFが上場されれば、堰を切ったように機関投資家マネーが流れ込んでくると多くの市場参加者が予想する理由はここにあります。

長い道のり

しかし実際にはビットコインETFがSECから承認されるのは「長い道のり」になりそうです。なぜなら今SECがビットコインETFを認めてしまうと「仮想通貨を取り締まる法的な枠組みはどうあるべきか?」という現在進行中の議論が結論に到達する前にSECが見切り発車する格好でビットコインの事実上の合法化が起きてしまうからです。

仮想通貨に関しては「そもそもこれは誰の管轄になるのだ?」という事すら、意見の一致を見ていません。

いまコンセンサスとなりつつある考え方は、2つの機関がその責任を分担しあうことになるだろうというものです。

そのひとつはSECです。もうひとつは米国商品先物取引委員会(CFTC)です。SECは有価証券の取引を取り締まる機関であり、CFTCはコモディティーの取引を取り締まる機関です。

このように2つの機関に責任が分かれる理由は、そもそも仮想通貨には有価証券的な性格とコモディティー的な性格が見られるからです。

具体的にはビットコインとイーサリアムは「ほぼコモディティーだ」という意見が支配的になっています。

これに対してICO(イニシャル・コイン・オファーリング=仮想通貨の売出し)の大半は有価証券だという見解が多いです。

議会公聴会

これに関し、7月18日に米議会の下院農業委員会で「デジタル時代の新しいアセットの規制監督」というテーマで公聴会が開かれました。

「農業と仮想通貨が、どう関係あるの?」と皆さんは思うでしょう。

その理由は、先物取引はかつて農務省の管轄下だったからです。その関係でCFTCは農務省ならびに下院農業委員会と密接に連絡を取り合っています。

この公聴会は法案を策定する議員たちが識者からの意見を聞くというカタチで進められました。

シャシュワ・フェアフィールド教授(ワシントン&リー大学)、アンバー・バルデー(クローバーCEO)、スコット・クポール(アンドリーセン・ホロウィッツのマネージング・ディレクター)、ダニエル・ゴーファイン米国商品先物委員会金融商品研究室ディレクター、ゲイリー・ゲンスラーMITスローン上席専任講師、ロウエル・ネス(パーキンス・クーイ法律事務所マネージング・パートナー)らが代わる代わる証言しました。

その討論の中で浮き彫りになったことは、どうやら仮想通貨はその開発局面では有価証券の色彩を強く帯びている一方で、ひとたびそのネットワークが完成すると、こんどはコモディティーのような性格を持つということです。

つまり前者ではSECが、後者ではCFTCが監督権限を持つ公算が大きいのです。

特にひとたびネットワークが完成した仮想通貨では、トークンは採掘などの方法により追加的に発行されるわけですが、それに対していちいち証券発行の登録、そして許可という手続きを経ていたらペーパーワークばかりが煩雑になり、仮想通貨エコシステムの運営コストが嵩んでしまいます。

議員たちの反応はネガティブ

これらの識者の意見を聞いた委員会のメンバーからは、仮想通貨の重要性は理解したものの、仮想通貨を取り締まる法的な枠組みの策定に関しては慎重に進めるべきだとする意見が多かったです。

また単純に「新しいモノ」に対する懐疑論も多く聞かれました。

農業委員会のメンバーが仮想通貨に対して慎重な理由は、店頭デリバティブに関する放任的な立法を2000年に成立した商品先物取引近代化法(CFMA)が、のちにエンロン事件やクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の大流行でリーマン・ショックの遠因となった苦い経験があるからです。

まとめ

今年の仮想通貨市場は、おもに法制度の整備の進捗に関するニュースによって衝き動かされています。大手運用会社ブラックロックがビットコインETFを準備中かも? という観測が流れただけで相場が動いたのも、そのような地合いを象徴していると言えます。

仮想通貨を取り締まる法的な枠組みの策定のための議論は進行中です。しかし「明日にでもすぐ結論が出る!」と期待するのは、この問題の複雑さから考えて楽観的過ぎるでしょう。