トルコ危機がこれからいよいよ深刻化すると思われる理由

アメリカ人牧師釈放観測でトルコリラは反発

トルコリラは今年45%近く下落しました。その後、(トルコが拘束しているアメリカ人牧師を釈放するのではないか?)という希望的観測がトルコリラの反発に一役買っています。

しかし私はまだ楽観できないと考えています。

楽観できない理由

その第一の理由は来年に予想されている市町村選挙を半年繰り上げ、11月4日に実施する可能性があるからです。


トルコでは6月に議会選挙があったばかりなので(また選挙か?)と海外の投資家はウンザリするかも知れません。

しかしエルドアン政権が市町村選挙の繰り上げ実施を画策している理由は、いまトルコが直面している経済危機が国民の心をひとつにまとめることに大きく貢献しているからです。

エルドアン政権は「トルコ経済は外国の陰謀でムチャクチャにされた」というキャンペーンを張っています。実際のところトランプ政権はトルコに対して厳しい態度で接しているので、トルコ国民の目にはアメリカが悪者のように映っています。

このような国粋的なムードの盛り上がりは市町村選挙を有利に進める上でたいへん好都合です。

もし多くの識者が予想するように市町村選挙が11月4日に繰り上げ実施されるのなら

 1)選挙前の利上げは望み薄

 2)財政健全化のための政府支出の絞り込みも期待できない

 3)アメリカ人牧師の釈放も「外圧に屈した」と思われるのを避けるためやらない

というシナリオが考えられます。

後退するトルコの政治

そもそも2002年に公正発展党(AKP)が勝利した理由はエルドアン大統領が経済改革や腐敗の一掃を公約したからです。

実際、AKPが政権を取った後、トルコは力強い経済改革に乗り出しました。2002年から2007年にかけてトルコのGDPは年率7%で成長しました。

しかし約束された改革や腐敗の一掃は公約通りには実行されませんでした。むしろ前よりいっそう酷い縁故主義や腐敗がトルコ社会にはびこっています。

過去のツケが狂乱インフレというカタチで回ってきた

低金利と公共工事で景気さえ維持すれば国民の支持が得られることを知っているエルドアン大統領は利上げ反対の立場を貫いています。

下はトルコの政策金利から消費者物価指数を引き算したチャートです。

これがマイナスになっているときは政策金利がインフレ率より低く設定されており、「金利政策が緩すぎる」と考えることができます。

この状態を長く続けると「インフレがクセになる」懸念があります。

このところトルコでインフレが荒れ狂っている理由は、したがって外国の陰謀と言うより長年に渡ってトルコが無責任な金融政策をおこなってきたツケが回ってきたと考えるべきでしょう。 

外貨準備は不十分

トルコは経常収支が赤字になっています。その帳尻を合わせるためにトルコは外国からの借金に過度に依存してきました。これらの借金はドルやユーロなどの外貨建てが多く、しかも近年は不健全な短期の借入れが流行していました。

このところのトルコリラ安で借金の返済負担は雪だるま式に大きくなっています。

トルコの対外債務の実に半分は短期の負債です。普通、ある国の短期での借り換えニーズは短期対外債務の残高に経常赤字を足し算した数字になります。トルコの場合、それは2300億ドルです。

一方、トルコの外貨準備は1100億ドルしかありません。つまり1200億ドルも不足しているのです。これはトルコ中銀がトルコリラを買い支えることは到底ムリだということを意味します。

今後、借金を返せない企業の一部は倒産するかもしれません。その場合、それらの企業に貸し込んでいるトルコの銀行の経営も脅かされる懸念があります。つまり現在進行中の通貨危機が、もっと幅広い金融危機へと発展するリスクがあるのです。