ブレグジット交渉の進捗状況について

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1.ブレグジットに関するドラフト案が完成

 英国と欧州連合(EU)の代表は、英国による欧州連合離脱、すなわちブレグジットの条件に関するドラフト案を完成させました。

 英国のテリーザ・メイ首相はこのドラフト案を1114日に英内閣に提出します。
 メイ首相の内閣はブレグジットに関する意見の相違から分裂しています。従って意見の紛糾により、そもそもこのドラフト案に関し内閣での合意すら取り付けることができないリスクがあります。
 もし内閣で成功裡に意見調整が出来た場合、このドラフト案は英国議会にかけられます。
 現在、英国の庶民院(House of Commons)での議席数は定員650議席に対しメイ首相の母体である保守党が316議席と過半数に達していません。
 このため本ドラフト案がすんなり承認される可能性は低いです。
 

2.背景

 2016623日、英国で国民投票が実施されました。そこでは英国のEUからの離脱が投票に付されました。その結果英国の国民は離脱を支持しました。
 これを受けて欧州連合と英国はこれまでブレクジットの条件の詰めを行ってきました。
 離脱の期限である2019329日は目前に迫ってきています。
 

3.英国側のプラン

 英国のテリーザ・メイ首相は「チェッカーズ(Chequers)・プラン」と呼ばれる離脱プランを温めてきました。
 チェッカーズはロンドンから北へ行ったバッキンガムシャーにある英国首相の別荘です。メイ首相がこの別荘に籠って離脱プランを練ったところからそのプランは「チェッカーズ・プラン」と呼ばれています。
 「チェッカーズ・プラン」では英国はEUと緊密な経済関係を維持すると規定しています。
 

4.EUは「チェッカーズ・プラン」に否定的

 しかし非公式なEUサミットの場でEU各国のリーダーは「チェッカーズ・プラン」を却下しました。
 テリーザ・メイ首相は「もう残された時間が限られているし、単に我々のプランを却下するだけでなく対案を出してもらわないことには、そもそも話し合いにならない」と反発しました。
 その後EUと英国の間で話し合いが持たれ、意見の食い違いの調整が行われました。
 

5.合意無きブレグジットか?

 もし両者が合意できる離脱プランが無いままに2019329日を迎えると、それは「合意無きブレクジット(No deal Brexit)」となり、英国製品がEUに輸入される際に関税が課せられることになります。また空港の入国管理窓口で大きな混乱が起きることも予想されます。
 

6.北アイルランド問題

 現在争点になっているのは英連邦である北アイルランドとEUメンバーであるアイルランドの間に国境の壁やチェックポイントを作るのか? という問題です。ここは歴史的に紛争が絶えなかった場所であり、1998年に「グッドフライデー合意」が調印される前は様々な事件が起きました。
 この問題に関しEUは「バックストップ」と呼ばれる暫定措置を英国側に申し入れました。これは北アイルランドとアイルランドの間に国境の壁やチェックポイントを作ることをせず、その代り北アイルランドはとうぶんEUのルールに従って入国管理や貿易業務を行う事で摩擦を回避するという提案です。
 そうやって時間を稼いでおいて、将来、英国とEU観での包括的な貿易条約が締結されるのを待とうという考えです。
 しかしメイ首相は「それは実質的に北アイルランドと英国の間に国境が出来てしまうことを意味するので合意できない」と却下しました。
 

7.政治的宣誓

 次に問題になるのは将来EUと英国がどういう関係を持つかということに関する政治的宣言の内容をどうするか?です。
 英国はEUと親密な関係を維持したいけれど、EUのルールに縛られることはしたくないと考えています。
 この政治的宣言は英国議会とEU議会のそれぞれにより承認される必要があります。
 20193月までにこの政治的宣言が合意され、承認を経て効力を持つかどうかが注目されます。
 

8.移行期間が始まるのは来年3月から

 以上、ブレグジットに関してはまだたくさんのハードルが残っています。基本シナリオとしては「合意無きブレグジット」は回避されると思われます。
 もし政治的宣誓が採択され、晴れて329日にブレグジットが成立すれば、そこから21か月の移行期間が始まります。