
1.FRBが金利政策の変更をシグナル
12月6日(木)連邦準備制度理事会(FRB)がFEDウォッチャーに観測記事を書かせることで金利政策の変更をシグナルしました。
この記事を書いたのはウォールストリート・ジャーナルのFEDウォッチャー、ニック・ティミラオス記者です。
記事の主旨は「FRBは12月19日の連邦公開市場委員会(FOMC)で0.25%利上げするのを最後に利上げの手を止め、しばらく様子見期間に入ることを検討している」というものです。
2.FEDウォッチャーについて
まず「FEDウォッチャーって、何?」ということですが、これは連邦準備制度理事会の動向をつぶさにフォローし、それを逐一報道する記者たちを指します。
彼らや彼女たちはFOMCの後の記者会見に参加し、直接ジェローム・パウエル議長に対して質問することもします。
沢山の報道機関がこのような記者を配置しているので、その全てが「FEDウォッチャー」だと言うことも出来ますが、それらの記者たちの中にあって、伝統的にウォールストリート・ジャーナルのFEDウォッチャーだけは「別格」的な扱いを受けてきました。
その理由は、FEBはウォールストリート・ジャーナルのFEDウォッチャーにそれとなく今考えていることを耳打ちし、観測記事を書かせることで、その記事に対する市場の反応をテストしたいからです。
歴代の有名なFEDウォッチャーとしては80年代から90年代にかけて活躍したアラン・マレー、その後を継いだデビッド・ウェッセル、そしてリーマンショック前後はジョン・ヒルゼンラースなどが居ます。
なおウォールストリート・ジャーナルがFRBに差し向ける記者の全てがFEDウォッチャーとして隠然とした影響力を行使するというわけではなくて、FRBが「こいつは使えないな」と思った記者には特ダネは出しません。
言い換えれば、FRBが考えていることを、記者の独断や主観で歪曲せず、そのエッセンスを巧く掴み、デリケートなニュアンスを注意深く、しかも細大漏らさず伝えてくれるような記者だけを重宝するというわけです。
現在のウォールストリート・ジャーナルのFEDウォッチャーはニック・ティミラオスであり、彼が今回のように特ダネをモノにしているということは、FRBは「こいつは安心して遣える」と思っているに他なりません。
3.FRBの考えている事と市場関係者の考えには大きなギャップがある
さて、FRBは2015年12月以降、ゆっくり、なおかつ着実なペースで、0.25%刻みで粛々と利上げしてきました。しかし利上げ局面は既に3年続いており、そろそろそれを終わりにすべき時期にさしかかっています。
そういう理由から、「いつ利上げが打ち止めになるのだ?」ということを巡って、市場参加者とFOMCメンバーとの間での意見に大きな隔たりが生じています。
市場関係者は「2019年の利上げは、せいぜい1回か、ひょっとするとゼロ回かも」ということを織り込み始めています。
その一方でFOMCメンバーが9月に示した「経済予想サマリー」によると2019年は2.4回の利上げが予想されています。
このように市場参加者とFOMCメンバーの予想に大きな食い違いが出ている時に突然、FRBが軌道修正するとそれが元でマーケットが大荒れになってしまうリスクがあるわけです。
そこで今回のようにFEDウォッチャーに観測記事を書かせることで、それとなく市場参加者に「心の準備」をさせるというわけです。
4.経済指標次第
本当にFRBが12月19日のFOMCを最後に「利上げ打ち止め」とするかどうかは、未だ決まったわけではありません。
それは経済指標次第(data dependent)です。
その意味で最初に注目されるのが今夜発表される雇用統計です。11月の非農業部門雇用者数のコンセンサス予想は20万人、失業率のコンセンサス予想は3.7%、平均時給のコンセンサス予想は前月期+0.3%です。
これらの数字がどう入って来るかに注目したいと思います。