米国債券市場には慢心が忍び込んでいる? ファッショナブルになりつつある現代マネタリー理論の危うさ

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■債券市場参加者の慢心

1月の連邦公開市場委員会(FOMC)以来、アメリカの市場参加者の間には「今年はもう政策金利の利上げは無い」ということに関する強いコンセンサスが形成されています。

下は米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レート(=略してFFレート)の先物の取引価格から逆算されたFFレートの確率をしめしたものです。

これを見ると221日の先物市場での取引価格から判断すると、いまから7カ月も先である今年918日のFOMCでのFFレートの予想は95.5%という極めて高い確率で現行の政策金利の水準、2.5%が堅持されることを織り込んでいます。

FOMCが直前に迫っている時、市場のコンセンサスがこのように高い集中を見せることは珍しくありません。

しかし未だ7カ月も先の政策金利に関し、これほどまでに満場一致のコンセンサスが形成されることは異例です。

言い換えれば、市場参加者は「もう今年の利上げは無い!」ということを決め付けてかかっているのです。

 

■新手の「理論」がチヤホヤされている

このような慢心の中で、これまで聞いたことも無いような新手の「理論」がウォール街で支持を集めています。

それは現代マネタリー理論(MMTModern Monetary Theory)と呼ばれるセオリーです。

これは比較的最近登場した概念で「経済がインフレになることなく拡大できるのであれば国家の借入れによるGDP成長の追求は悪くない」という主張です。

そこでは「借入れを増やしたことが原因でインフレを誘発したなら、その時点が更なる借入れをSTOPすべきポイント」と考えます。

これに対し伝統的なウォール街の考え方は「投資家が腹いっぱい国債を買い過ぎて、もうこれ以上買いたくないと言った瞬間が、更なる借入れをSTOPすべきポイント」だとしてきました。

別の言い方をすれば前者が「インフレ率」に注目しているのに対し後者は「債券利回りの上場」に注目しているということです。

この理論の主唱者はかつて上院予算委員会のエコノミストを務めたことがあるステファニー・ケルトン教授です。

この考えからすれば、いまはインフレが殆ど無い状態なので、米国政府はもっとずっと多額の借金をしても良いことを意味します。

 

■9月頃「待った無し」になる連邦債務上限引き上げ問題

実は、この新手の「理論」が持て囃されている背景には、今年、連邦債務上限引き上げ問題に議会が取り組む必要があるからです。

それを議論するにあたって「まだまだアメリカ政府の借金を増やしてもノー・プロブレム!」とするこの「理論」は、たいへん都合が良いのです。

米国政府の借金は現在連邦債務上限を超えているのですが、当面は「臨時措置(Extraordinary measures)」とよばれる方法で、財務省証券の利払い、償還、社会保障の支払いなどの重要な支出項目についてはやりくりできます。

しかしそれらの「ごまかし」は9月くらいまでに万策が尽き、その時点で債務上限そのものを引き上げる必要が出ます。

その時点で上述の現代マネタリー理論(MMT)を振りかざし、米国連邦政府の借入れ上限のタガが大幅に緩められると、それはインフレ圧力を生み、結果としてMMT主唱者たちが考えているよりずっと早く借入れのリミットが来てしまうリスクもあるわけです。

そのことは冒頭のところで見た「95.5%」という極めて強いコンセンサスが裏切られる可能性もあるということです。

その場合、市場の不安は増し、ボラティリティーの増加は株式のバリュエーションにも暗い影を落とすリスクがあります。

したがって、現在の金利安を所与のものとして余り当然視しないほうがいいでしょう。