
■ 今回の米中貿易戦争エスカレートの発端
米中貿易戦争のエスカレートを嫌気しアメリカの株式市場が急落しています。
事の起こりは5月4日にトランプ大統領が「貿易交渉が上手く行ってないので関税を引き上げる」とツイートしたことです。
アメリカ側は中国が一旦は知的所有権の保護や強制的技術移転など一連の争点に関し前向きに取り組む態度を表明しながら、それを土壇場で反故にしたことに立腹しました。
中国側は「まず自分たちを信用し、関税を撤廃してほしい。一連の改革は約束通り実行に移す」と主張しました。
しかしアメリカが5月10日(金)に2000億ドルの中国の輸入品に対する関税率をこれまでの10%から25%へ引き上げたことで話し合いは完全に立ち往生しました。
中国も報復として600億ドルのアメリカからの輸入品に対する関税を6月1日から引き上げると発表しました。
■ マーケットの反応
アメリカのS&P500指数は5月の高値2954.13から2811.87まで-4.8%調整しています。S&P500指数は既に50日移動平均線を割り込み、200日移動平均線(2775.83)を試しに行く展開となっています。
一方中国への依存度の高い半導体セクターを代表するフィラデルフィアSOX指数は高値の1604.57から1408.95まで-12.2%の調整となっています。
これらの指数がザックリと調整していることを考慮すれば、調整は長引くと考えるべきです。
■ 長短金利差が0に
米国の10年債は「質への逃避」の対象となり買い進まれました。その結果、利回りは2.405%まで低下しました。このため10年債利回りから3か月物Tビル利回りを引き算した差は-0.007%になっています。
普通、このように長短金利差が0以下になるとそれは不況の前兆だと言われています。つまり5月4日のトランプ大統領のツイートに端を発する市場環境の暗転で、アメリカは再び景気後退のリスクに晒されはじめているということです。
エコノミストの中には「今回の関税率の引き上げは米国のGDP成長率を-0.2%押し下げる」という意見があります。
いずれにせよ最初トランプ大統領がツイートした直後に未だ市場参加者の多くが抱いていた楽観的な見通しはここへきてかなり修正されてきており、今後、しばらくの間、市場のボラティリティーが高止まりするという考え方が広がりつつあります。
■ 安全資産への資金シフト
その場合、投資家は安全資産へと資金をシフトします。具体的には米国財務省証券に加えて円も買われる可能性が高いです。これとは対照的に新興国の通貨や株式などのハイリスクの投資対象からは資金が抜け出てゆくと思われます。
ハイリスクといえばIPO(新規株式公開)がこのところ話題をさらっていましたが、今回の市場の暗転でIPOのウインドウは閉じたと考えて良いでしょう。今後は急成長が見込まれるが故にべらぼうに高いバリュエーションまで買い進まれている小型ハイテク株への投資は絞り込んだほうがいいと思われます。
■ FRBの次の一手
米国連邦準備制度理事会(FRB)の今後のアクションとしては利下げを予想する市場関係者が増えています。実際、コンセンサスは2019年のうちに1回利下げがあるというものになりつつあります。
ここで投資家が気をつけなければいけないのは、景気拡大の最終局面での利下げは「買い」ではなく、「売り」かもしれないという点です。
普通、利下げは「買い」ですが、長い景気拡大局面の終わりに限って言えば利下げは景況感の急速な暗転の下で慌てふためいて行われることが多いです。そのような場合、株価は利下げにもかかわらずどんどん突っ込むリスクがあります。
■ まとめ
米中貿易戦争は解決の糸口の見えない、時間のかかる展開になってきています。それに応じて株式市場の調整も(ひょっとすると長引くかも)という認識が市場参加者の間で広まりつつあります。投資家は安全資産への逃避の姿勢を強めています。ここは我々もリスクを取らず、縮小均衡を心がけるべき局面です。