米国通商代表が3000億ドルの中国の輸入品に対する関税を延期 それが株式市場にとって持つ意味は?

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■関税の延期

8月13日(火)、米国通商代表(USTR)が9月1日から実施される予定だった3000億ドル相当の中国からの輸入品に対する10%の関税を、一部延期すると発表しました。

それによるとスマートフォン、ラップトップ、PCディスプレイ、ビデオゲーム・コンソル、玩具、一部の靴や衣料品に関し関税の導入を12月15日まで延期するそうです。

トランプ大統領は記者団との談話の中で「クリスマス商戦に配慮した」とコメントしました。

市場参加者はこれを歓迎すべきニュースと受け止めました。8月13日の米国株式市場ではS&P500指数が+1.44%、ナスダック総合指数が+1.95%急騰しました。

■駆け引き

トランプ大統領は交渉事に強いと自負しています。そのアプローチはビジネススクールで教えるような、定石に則った正統的な手法です。

そこではまず最終的に自分が得たい結果や許容範囲を自分の中で決め、その着地点の範囲内に収束できるよう、最初はわざと高飛車に出て、次に譲歩する手法が取られます。

このアプローチは教科書的常套手段なのですが、交渉事に詳しくない投資家ほど一喜一憂する傾向があります。つまり投資家もまんまとトランプ大統領に手玉に取られているのです。

実際には8月13日の発表の後も米中貿易交渉は合意に達したわけではありませんし、特に進展があったわけではありません。

■経済へのインパクト

それを断った上で今回、クリスマス商戦に関係する品目が関税の対象から外れたことは重要なクリスマス商戦期間の小売売上高が凹むリスクを軽減する効果があると思います。消費はアメリカ経済の約70%を占める重要なセクターであり、諸外国の経済の見通しが軒並み暗転する中で米国経済が堅調な理由の少なからぬ部分は消費の堅調によります。

その反面、米中貿易戦争のもたらす暗雲は引き続き深くたれこめています。実際、8月のドイツのZEW景況感指数は-44.1と予想の-28.5を大きく下回りました。

連邦準備制度理事会(FRB)のジェローム・パウエル議長は外部要因、すなわち諸外国の景気動向が主なリスク要因であると述べています。関税延期のニュースは、その状況を好転させる内容ではないと思います。

■香港情勢

米中貿易戦争は世界でNo.1とNo.2の経済の間でのイザコザであり、それ自体、世界の景気の先行きを不透明にさせるに十分な悪材料です。それに加えて香港のデモ隊の問題もだんだん深刻な経済問題の様相を呈してきました。

香港経済が中国経済に占める割合は一桁台の下の方まで下がっています。しかし香港は中国が資金調達する際の重要な金融センターですし中国の輸出品の一部は香港のコンテナ輸出基地を経由して世界に送り出されます。つまり香港には「ヒト、モノ、カネ」が集まっており、その重要性は今日も薄れてないのです。

とりわけ株式による資金調達という面では香港の株式市場は世界で四番目に大きいマーケットであり、ドイツのフランクフルト市場よりも大きいです。そのような金融センターとしての香港に集まって来るマネー、そしてプロフェッショナル達の培ったノウハウが今後何らかの理由で損なわれると、それは香港そのものだけでなく中国にとってもマイナスだと思います。

■投資戦略

以上、述べてきたように今回の関税の延期はグッドニュースには違いないけれどマーケットのアウトルックを激変させるような性格のものではありません。米国経済は「首の皮一枚でつながっている」状況であり、今後のデータをよく見極める必要があります。幸い長期金利はずいぶん低下したのでそれは株式バリュエーションにとっては支援的です。第2四半期の米国企業の決算は概ね良好でした。FRBは今後米国の景況感が大きく暗転しない限り、0.25%刻みであと2回程度予防的な利下げを行うと思われます。

これらのことは米国株式に関する限り、強気材料と弱気材料はちょうどよくバランスが取れていると言えると思います。