
■欧州共同債
7月21日に欧州連合(EU)は新型コロナウイルスで不況に陥った欧州経済にテコ入れするための復興基金を創設すると発表しました。
市場の話題をさらったのは、この基金のうち最大7500億ユーロをEU共同債を発行することで市場から調達すると発表された点です。
これまでにもEUは極めて限定的な局面で超国家的な債券を発行した例はあります。しかしそれはあくまでも例外です。
一応、EU共同債の発行は2026年まで、そして最終的な償還期限は2058年となっています。しかし今回のEU共同債の発行は半恒久化する可能性を孕んでいるように思います。
それというのもEU共同債は「大ヒット商品」になる公算が大きいし、EUにとってもメリットが大きいからです。
■「借金は、大きくまとめてするほうがいい」
なぜ欧州の個々の国が国債を発行して借金するより、EUがグループとして借金したほうが良いのでしょうか?
それを説明するには「米国建国の父」のひとり、アレキサンダー・ハミルトンの有名な主張に立ち戻ることがわかりやすいように思います。
米国はもともと英国の植民地でしたが、「ボストン茶会事件」を経て、英国の植民地支配に反旗をひるがえし、1776年に独立宣言を出しました。これは必然的に13植民地と英国との間での独立戦争へと発展してゆくわけです。
13植民地は、それぞれに戦費を借金し、この独立戦争を戦い、最終的に英国に対して勝利したわけですが、このときに背負込んだ借金のせいで植民地財政は破綻同然でした。
そこで初代のアメリカ合衆国の財務長官となるアレキサンダー・ハミルトンは「あなた方が個々に借金しているから立場が弱くなるのだ。借金というものは大きければ大きいほど借り手の立場が強くなるし、まとめた方が信用力もUPする!」と主張しました。
ハミルトンは新生アメリカ合衆国として「米国財務省証券」を出し資金調達する一方で、そうやって得たキャッシュで13植民地が負った借金を返済することに充当したのです。
これは新生アメリカ合衆国の連邦政府が、13植民地の借金を肩代わりしたことを意味します。
このようにして借金を一本化したことで借り手の立場は強くなりました。また貸し手も「相手の信用力がUPした」と判断したのです。
米国財務省証券を出すことは13植民地の結束を高める働きもしました。つまり「合衆国」として国家意識を植え付けるうえで、共同で借金することが大きな役割を果たしたのです。
■EU共同債が人気化する理由
EU共同債は前人気が高いです。その最初の理由はEU共同債を出すことでユーロ圏が機動的かつ柔軟に、そして安い借り入れコストでまとまった金額を調達できるようになると慢性的にグズグズしていたユーロ圏のGDP成長に活が入ると考えられているからです。
1992年以降のユーロ圏の平均成長率は1.27%で、米国の2.4%より低いです。日本は0.7%です。
次に消費者物価を見ると1992年以降のユーロ圏の消費者物価指数は平均すると1.89%であり、これは欧州中央銀行のターゲットである2%に限りなく近いです。
ちなみにおなじ期間の米国の消費者物価指数は平均して2.3%、日本は0.29%でした。
次に失業率を見ると1992年以降の欧州の失業率は平均すると10%でした。これは米国の6.2%、日本の4%よりかなり悪いです。
つまりユーロ圏は成長を加速させることで失業率を改善することが望まれているわけです。
最後に毎年の政府借入れがGDPの何パーセントに相当するか? をチャートにしたのが下です。
これを見るとユーロ圏は日本や米国より借入れへの依存度が低かったことがわかります。そのひとつの理由は、欧州の個々の国は規模が小さいため、有利な条件で借入れしにくかったことによります。とりわけ南欧諸国などの弱い財務体質の国々は発行条件の悪化に苦しむことが常態化していました。
ドイツのような信用力が高い国とギリシャのように信用力の低い国が一緒になって借金することで成長のためのお金を必要としている国にどんどん低利の資金を回せるようになるわけです。
これは欧州全体でみればGDP成長の加速をもたらすと予想されます。そのことは地域として欧州の魅力がUPすることを意味します。それは通貨ユーロが強含むことを示唆しており、そういう一連の好循環が「投資対象としてのヨーロッパ」の魅力を引き立てることになると思います。