
■連邦公開市場委員会
3月16・17日の両日に渡って開催されていた連邦公開市場委員会(FOMC)が閉幕し声明文が発表されました。米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レート(略してFFレート)は現行のまま0~0.25%が維持されました。債券買い入れプログラムも現行のまま米国財務省証券を毎月800億ドル、住宅抵当証券を毎月400億ドル買い入れることが維持されました。
■経済予想サマリー
経済予想サマリー(SEP)はFOMCの前にFRBメンバーに配られるアンケートをまとめた資料です。政策金利や経済指標に関しメンバーが思い思いの予想数字を記入します。重要な点としては、これはFOMCの正式見解ではなく政策でも無いということです。あくまでも参考資料に過ぎません。
SEPによるとFRBメンバーはFFレートの今後について下のチャートのように予想しています。

前回(2019年12月)のSEPと比べて変化が無かった点が注目されます。但し、細かい話をすれば2023年に関しては7人のメンバーが現在のレンジである0~0.25%よりも上のところにFFレートが来ると予想していました。
それを断った上でFRBメンバーのFFレート予想では2024年までは政策金利は動かないというのがコンセンサスになっていると言えるでしょう。
一方、GDP成長率を見ると下のチャートのようになっています。

こちらをみると今年のGDPは12月の予想4.2%が今回は6.5%に上方修正されておりFRBメンバーが足下の米国経済は力強く回復することを予想していることがわかります。しかし2022年以降の予想は前回とそれほど変わっておらず、このリカバリーは新型コロナワクチンの接種をきっかけとした経済再開の一時的な現象であり短命に終わると予想していることがわかります。
次に失業率を見ると下のチャートのように予想されています。

2021年末の失業率は4.5%に下方修正されています。これは景気回復が予想を上回るペースで実現していることを反映したものだと言えるでしょう。2023年末の失業率は3.5%が予想されており、これは新型コロナ禍が始まる前の水準とほぼ同じです。つまり2023年末には経済は普通の状態に戻るとFRBメンバーは予想しているわけです。
次に物価ですがFRBメンバーはFRBが好んで使用するPCEインフレを下のチャートのように予想しています。

ここで問題になるのは2021年末の数字が2.4%となっている点です。FRBの使命は1. 雇用の最大化と2. インフレを2.0%で安定する、ということです。それに照らせば2.4%というのは少し高過ぎるという印象を与えるかもしれません。
しかし上のFFレートの予想のチャートで見たように今年利上げを予想するメンバーは居ないわけで、それはFRBが今年の2.4%のインフレは「見て見ないフリをする」ことを示唆しています。
■新金利政策決定枠組みについて
FRBが敢えて利上げしないのは、去年、新しい金利政策決定枠組みを打ち出し、そこでは「インフレ率が2%を超えても慌てて利上げせず、ゆっくり様子を見る」という方針が打ち出されたばかりだからです。
FRBが有言実行でこの新方針を貫くかどうかは、実地で示す必要があります。そのためにはインフレが2.0%を超えても頑として金利を動かさないことが必要となります。
今回のFOMCでは、そのことが明快に市場参加者に対してコミュニケートされたと思います。
言い直せば、現在、市場参加者のインフレ期待は2.0%前後でしっかりとアンカー(投錨)されており、なし崩し的にインフレが酷くなるリスクは低いということです。
そうなのであれば、もうひとつのFRBの目標である雇用の最大化をこの際優先し、現在の緩和的な政策を貫くことで1日でも早くそれに到達するということが正しい処方になります。
■まとめ
今回のFOMCのSEPとパウエル議長の記者会見はFRBが最近の長期金利の上昇に接してすこしも取り乱した様子は無く、がっちり規定のコースを進んでゆくことを強くシグナルしたと思います。
平たい言い方をすれば「経済は少しオーバー・ドライブ気味なくらいHOTに持って行ってOK」というメッセージだと思います。その場合でもインフレはハチャメチャにならず、自然に2%に着地するというのがFRBが言いたいことのように思います。
これは株式にとっては理想的なシナリオであることは、言うまでもありません。