市場参加者のインフレ期待は低い水準に固定されている FRBは予定通りにゆっくり引締めを始めることが出来る

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■ここまでの経緯

6月16日に米国の政策金利を決定する会合、連邦公開市場委員会(FOMC)が閉幕し、ある時点でこれまで実施してきた債券買い入れプログラムの縮小(=テーパーリング)を始める方針がハッキリと打ち出されました。

テーパーリングに際してはマーケットを動揺させないため、時間の余裕を持ち、早い段階でそれを発表することで投資家がポートフォリオの調整を行うことを可能にします。

米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、物価の軟着陸を目先の最大の課題とし、8月下旬にワイオミング州で開催されるジャクソンホール・シンポジウム付近でテーパーリング開始が宣言される見込みです。

■10年債利回り

さて、上のような進展を見て、市場参加者はどのような反応を示したのでしょうか? 下は米国の10年債利回りのチャートです。

(出典:セントルイスFRB)

 

FOMCのあった6月16日の利回りは1.57%、現在は1.48%ですので明らかに利回りは下がっています(=債券価格は逆に上昇)。

10年債利回りはごく単純化して説明すれば「政策金利+投資家が考える長期でのインフレ率」で決まってくると説明できます。すると今回の利回りの下落が意味するところは市場参加者たちが「FRBはいずれインフレを抑え込むことに成功する」と考えているのに他なりません。言い換えれば投資家のインフレ期待は低い水準に固定されているということです。

■インフレの心理

物価がどんどん上ると思うからその前に急いで買い物を済ませる。みんなが急いで買うから余計物価が上る……このようにインフレは人々が物価の先行きに関してどういう風に感じているか(=それをインフレ期待と言います)に左右されます。

いまインフレ期待が低い水準に固定されているということは手のつけられないハイパー・インフレのようなことは起こらないと市場関係者が判断していることを示唆しています。

■FRBは慌てる必要なし

もしハイパー・インフレをみんなが予想しているのなら皆が慌てて生活防衛の行動(=つまり先を争ってモノを買う)を始めるので本当にインフレが来てしまいます。でも長期債の動きを見る限り、それとは反対のことが起こっているわけですからFRBは慌てる必要は無いのです。

新型コロナ発生以降のFRBの采配をみると、細かい政策についてはかなりきびきびしたアクションを取って来ました。

たとえば去年の3月に信用市場が機能不全に陥りそうになったときはすぐ銀行のリスク管理ツールのひとつであるレバレッジ率計算基準(=SLR)から米国財務省証券を除外し、計算に含めなくて良いようにすることで銀行に米国債を買う事を奨励しました。この臨時措置は予め決められていた1年という期間が満了したので予定通り終了しています。

さらに企業が資本市場から資金調達できにくくなったのを見て、FRBは「我々が直接、企業の社債やETFを買ってあげるから、心配せずどんどん発行しなさい!」と宣言し、行動でそれを示す意味で社債やETFを買い込みました。現在は資本市場は正常な機能を取り戻したので、FRBはそうやって買い込んだ社債やETFをサッサと処分する方針です。

このように細かい政策に関しては機敏に、かつメリハリをハッキリつけた采配を行う一方で、メインになる債券買い入れプログラムや政策金利の変更に関してはじゅうぶんな予告期間を設け、ゆっくりと動いているのです。

そういう動き方で正解だと思います。