ジャクソンホール・シンポジウムの結果

■パウエル議長のスピーチ


8月27日、ジャクソンホール・シンポジウムが開催されました。ジェローム・パウエル議長のスピーチを要約すると、次のような事が述べられました。

1. 米国経済は力強く、しかし凸凹な回復の途上にある
2. 普通、景気後退局面で観察される個人所得の減少は見られず、逆にそれは上昇した
3. 家計部門は支出の対象をサービスからモノへとシフトした
4. 突然のモノへの需要集中が品薄やボトルネックの原因となった
5. 耐久財インフレは、そのようなシフトが原因
6. 今回の不況では最初の2か月であっと言う間に3千万人が雇用を失った
7. その後の回復は急速で、コロナ前より600万人低い雇用水準まで戻してきた
8. 黒人、ヒスパニックなどの社会的弱者が受けた打撃が大きい
9. レストラン、航空会社、歯科医が打撃を受けた反面、耐久消費財はブームとなっている
10. 過去12ヵ月の個人消費支出インフレは4.2%とターゲットの2.0%を超えている
11. 中味を見るとごく一部の品目にインフレが集中している
12. 値上がりが激しかった中古車価格は既に下落に転じている
13. 過去25年で見ると耐久財インフレはサービスインフレよりずっと低かった
14. 今後耐久財インフレは一巡するだろう
15. 賃金の上昇は生活水準向上に欠かせない
16. しかし生産性の向上なき賃金上昇は「賃金=価格スパイラル」をもたらすので良くない
17. 現在のところ、それが起こる兆しはない
18. 長期期待インフレ率は低い位置に固定されている
19. 連邦準備制度理事会は目先の物価に振り回され、慌てて政策変更すべきでない
20. インフレに関しては「かなりの、更なる進捗」が達成できた
21. 雇用最大化に関しても明らかな進捗が見られている
22. 年内にテーパーを開始するのが適切
23. テーパー開始時期と毎月のテーパー額は利上げタイミングとは無縁
24. 利上げに関してはこれまでとは違う、より厳しい合格基準を満たさなければ開始しない

■ポイント


パウエル議長のスピーチで最も重要なのは20. 以降の各ポイントだと思います。

まず20. では連邦準備制度理事会(FRB)が米国議会から与えられている①物価を2.0%にもってゆく、②雇用を最大化するという二つの目標のうち、①が完了したと宣言したことを意味します。

21. の雇用に関しては、かなり良い感じで改善してきており、「あと一歩」のところまで来ている印象を与えます。

22. が今回のスピーチで最も重要なキーワードであり、「年内に実施する!」という具体的なタイミングに今回、初めて言及しました。今後の連邦公開市場委員会(FOMC)は

9月21・22日
11月2・3日
12月14・15日

に予定されていますが、今回のパウエル議長のスピーチを見て(たぶん11月だろうな?)と感じたエコノミストがとても多かったです。

23. はテーパーと利上げをひとまとまりのアクションだと考えるのではなく、ハッキリと切り離して考えて欲しいというパウエル議長の懇願だと解釈することが出来ます。なぜなら市場参加者はどうしても(債券買い入れ額がゼロになったら……自動的に利上げが始まるだろう)と決め付けてしまいがちだからです。

利上げに関し、24. で「より厳しい合格基準を満たさないといけない」としたのは、FRBが採りうる政策の自由度を増すための発言と受け取ることが出来ます。

■今後の展開


ジャクソンホール・シンポジウムでのパウエル議長のスピーチの後、株式市場は買われました。それは市場参加者が(どうやら今すぐテーパーを始めるわけではなさそうだな)と解釈したからに他なりません。

しかしスピーチを丹念に読むと「年内には着手」と明言しているわけだから後ろは明らかに確定したわけで、その意味で今回のスピーチはこれまでよりも一歩踏み込んだメッセージになっています。

9月の第一週に予定されている雇用統計の発表がそれなりに良い数字であれば、9月の末のFOMCでいよいよテーパーが発表されるというのが順当だと考えます。