ジャクソンホールでのパウエル議長のスピーチはタカ派だった

■ジャクソンホール

8月26日(金)、ジェローム・パウエル連邦準備制度理事会(FRB)議長がジャクソンホール経済シンポジウムでスピーチしました。

 その中でパウエル議長は「インフレの勢いが少し弱まったからといってすぐに金融緩和すると1970年代のような悲惨なことになる」という意味の発言をしました。そして米国の政策金利であるフェデラルファンズ・レートが3.4%前後の、いわゆるニュートラル・レートまで今年年末に引き上げられた後も政策金利はとうぶんその水準を維持する決意を表明しました。

 これは今までのパウエル議長のメッセージとは少しニュアンスが違い、よりタカ派になったと言えます。

 これまでは「インフレがトレンドとして鎮静化に向かったら政策金利を再考する」というメッセージでした。すると例えば三ヶ月連続で消費者物価指数の伸びが鈍化すれば、それは「鎮静化のトレンドだ」と言えるわけで、その場合、利下げがあってもおかしくないと考えられていたわけです。

 しかし金曜日のスピーチでは1970年代のFRBが性急に金融引締めから金融緩和に転じたことで折角収まる様子を見せていたインフレが再燃し、コロコロ変わるFRBのスタンスが「Stop & Go」と揶揄された経緯を踏まえて、今回は高い政策金利のままで水平飛行に入り、とうぶん政策金利を動かさないという方針が明快に示されたのです。

 言い換えれば金曜日のパウエル発言では利上げが一層きつくなるということが示されたのではなく、利上げが打ち止めになった後もその政策金利の水準を長く維持するというデュレーション(保持期間)に関するガイダンスが明確化されたというわけです。

 ■政策金利の高止まりは株式にネガティブ

引締め度合いのガイダンスに変化がなく、引締め期間に関するガイダンスが延びたことは株式バリュエーションにどう影響を及ぼすのでしょうか?

 結論から言えばそれはマイナスです。

 なぜならこれまで投資家は(いずれ金融引締めから金融緩和へと転じるのであれば、それに先回りして今から買っておこう)という考えで見切り発車的に買いを進めてきたからです。

 ところがとうぶん政策金利が緩められないのであれば待たされる時間が延び、その分、投資家にとってはロスタイムとなってしまいます。それなら株価下落リスクがある株式を買うより、利回り的にも魅力が増した短期市場でノー・リスクで運用したほうが得です。

 金曜日に米国株が急落したのはそのような理由によります。

 ■今後の米国経済への含蓄

さて、金曜日のパウエル発言が今後の米国経済に対して持つ含蓄ですが、それはひとことで言えば「ハードランディングは避けられなくなった」ということに尽きると思います。なぜなら経済を軟着陸させるための柔軟な対応をすることをFRBが敢えて否定したわけですから残るはハードランディングのシナリオしか無いわけです。

 経済がハードランディングするということは別の表現をすればリセッション(景気後退)が到来することを意味します。

 普通、米国経済がリセッション入りする前に株式市場は大きな下げを演じます。つまり米国株は今年の年初からダラダラ安が続いているわけですが、これがもし「リセッションの前兆としての株安」なのであればまだまだ下げが足らないわけで、これからその下げが襲ってくると考えるのが一番すっきりとした、最も実現する可能性の高いシナリオなのです。

 このような考え方を「オッカムの剃刀(カミソリ)」と言います。すなわち同一条件の下ではいちばんシンプルなシナリオが一番起こりやすい結論だということです。

 それでは「リセッションの前兆としての株安」はどのくらい酷いものになるのか? ということですが、1970年以降の米国株のリセッションの前兆としての株安は平均して高値から-39%でした。年初来先週末までのS&P500指数の下げ幅は-14.9%ですから過去平均を当てはめるともっと下げてもおかしくないわけです。