
バリュエーション
今回は2017年最初の記事になりますので、現在の米国株の置かれている状況を整理しておきたいと思います。
まずバリュエーション(株価評価)を点検します。
去年の年末のS&P500指数の引け値は2,238.83でした。2016年のS&P500の一株当たり利益(EPS)は118.69ですので、株価収益率は
2,238.83 ÷ 118.69 = 18.86倍
になります。ちなみに過去10年間の平均は16.1倍でした。
リーマンショックがもたらした大不況で、アメリカの企業が急に儲からなくなり、S&P500のEPSは、2008年の992から2009年は875に落ち込みました。そのとき、一瞬だけPERが24倍に跳ね上がりました。しかしこれは「異常値」ですので除外して考えるべきでしょう。
すると現在の18.86倍というPERは過去10年で最も割高となっています。
業績の見通し
ボトムアップ方式による2017年のS&P500のEPSは132.67が予想されています。
しかしこの予想は下に述べる2つの理由から、かなり割り引いて考えた方が良いでしょう。
まず新年に入り、アナリストがバケーションから帰って来ると、これまで放置されてあった古い予想数字が更新されると予想されます。その場合、楽観的過ぎる予想が、より現実的な数字に下方修正されると思われます。
実際、11月の第3四半期決算発表シーズンでは第4四半期以降の見通しを下方修正する企業が上方修正する企業より大幅に上回りました。
次に貿易加重ドルの動きですが、ドナルド・トランプが大統領に当選して以降、急激にドル高に振れています。
米国企業の売上高に占める海外比率は31%であり、ハイテク企業に関しては実に58%が海外となっているため、このドル高は収益圧迫要因となります。
これらのことから2017年のS&P500EPS予想には下方修正が入ると考えるのが自然です。
大統領就任式と大統領令
1月20日にドナルド・トランプの大統領就任式が行われます。これに絡めて気を付けなければいけないのは、就任式に合わせて、トランプが大統領令を発する可能性がある点です。
大統領令(EO: Executive order)とは、行政府の長として大統領が省庁に対して発する命令を指します。連邦政府の職員は、これに従う必要があります。
大統領令は、議会、つまり立法府の正式な手続きを経て成立した法律ではありません。でも、しばしば同じくらいの拘束力を持ちます。
アメリカではこれまでに1万3千近い大統領令が発令されてきました。
なぜアメリカの大統領はそんな勝手が出来るのか? ということですが、これは合衆国憲法第二条第一章の「執政権(Executive Power)」に規定されています。それによると大統領令は大統領の一存で勝手に発動できます。大統領令が既存の法律と矛盾、抵触してしまった場合は議会が現在の法律を改正する、ないしは省庁が大統領令を実行に移す際の厳密な解釈を提示する、などの方法で矛盾を回避します。
大統領が議会の措置に不服な場合、拒否権を発動することが出来ます。その場合、大統領の拒否権を覆すには3分の2の議決が必要です。
歴史的には外交、国防、条約などに関し大統領令が出された場合、議会は沈黙を守るケースが多かったです。なぜなら合衆国憲法はそれらの案件に関し大統領に大きな権限を付与しているからです。
現時点でトランプ大統領が就任早々大統領令を連発するかどうかは予想不可能です。しかしこれまでにいろいろツイートしているところを見ると、何が飛び出しても不思議はないでしょう。
まとめ
現在の米国株式市場のバリュエーションは過去10年で最も割高となっています。次に2017年の収益予想はドル高の影響で下方修正されるリスクがあります。さらに1月20日の大統領就任式では貿易などに関し大統領令が発動され、相場のセンチメントを害するリスクがあります。