
第1回投票の結果
4月23日(日)に実施されたフランス大統領選挙第1回投票ではエマニュエル・マクロンとマリーヌ・ル・ペンの2名が決選投票へと進みました。
敗北したフランソワ・フィヨンは支持者に対し「次は自分の代りにマクロンに投票してあげて呉れ」とマクロン支持を打ち出しました。
5月7日の決選投票のシナリオ
5月7日(日)に行われる決選投票では、エマニュエル・マクロンが勝つことが確実だと思います。
その理由は、歴史的にフランスの有権者は決選投票では急に保守的な候補に票を投じるという傾向があるからです。またフィヨンのマクロン支持が示す通り、中道・保守の票が全てマクロンに集中すると予想されるからです。
マリーヌ・ル・ペンは、ていねいに親ナチス的な色彩を彼女の政党、国民戦線から取り除く努力をしてきました。
しかしル・ペンの補佐をしている幹部がネオ・ナチの集会に顔を出していたことが新聞にすっぱ抜かれるなど、どんなに表面を取り繕っても、結党の根底にある人種差別主義のルーツは拭い去れるものではありません。
フランスの識者は、そういうことを良く理解しているので、どんなにル・ペンが国民戦線のイメージにお化粧を施しても、ル・ペンには投票しないと思われます。
そのような理由から決選投票ではマクロンが60%、ル・ペンが40%という得票シェアになると予想されています。
フランスのEU離脱が困難なわけ
ル・ペンが勝つ可能性は、上に述べたように殆ど無いのですが、百歩譲って、彼女が勝ったと仮定し、その際、フランスがEU(欧州連合)離脱する可能性があるのか?について考えてみたいと思います。
まずフランスがEUのメンバーとして参加することはフランス憲法に成文化されています。
そのことが何を意味するか?と言えば、大統領がフランスをEUから脱退しようと思うと[1]議会の60%の賛成をとりつける、もしくは[2]国民投票で直接国民に問う、のどちらかをする必要があるのです。
ル・ペンの国民戦線は国民議会(=米国の下院に相当)と元老院(=米国の上院に相当)の両方合わせた総議席数925のうち、僅か4議席しか占めていません。だから[1] は困難です。
すると[2]の国民投票の公算が高くなります。しかしフランスの有権者の大半(66%)はEU残留を望んでいますし、フランス・フランの復活を望んでいません。
実際の国民投票の手続きは、大統領が先ず首相(=大統領が指名します)に「国民のちからの組織化(the organization of public powers)」に基づく国民投票の実施を宣言させる必要があります。これは1962年にシャルル・ドゴールが行った手法です。
しかしその後、憲法の規定が変わり、現在は、そのような理由で国民投票を宣言する際、まず憲法評議会が国民投票の合憲性を審査する必要があります。
憲法評議会は、議会の60%の賛成をとりつけていない国民投票に対しては違憲の判断を下し、無効を宣言できます。つまり、仮に国民投票でブレグジットの時のように離脱派が勝ったとしても、憲法評議会はそれを覆せるのです。
欧州のファンダメンタルズは改善している
いずれにせよ、マクロンが次期大統領になる確率がグーンと高まった今、いつまでもEU崩壊シナリオに拘り続けるのは、投資家として得策ではないと思います。
むしろ選挙リスクを嫌気し、極端に弱気なポジションとなっていたユーロならびに欧州株に、買戻しが入ると考えるのが自然です。
実際、製造業とサービス業を合わせた、フランス総合PMI指数をみると、このところ著しい改善が見られます。
またユーロ圏の固定資産への先行投資の尺度である事業投資率も、ここへきてジャンプしています。
このように欧州経済はアメリカ経済にキャッチアップしようとしているところなのです。この改善を、素直に評価すべきときが来ているのではないでしょうか?
- 写真:エマニュエル・マクロン:Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com
- 写真:マリーヌ・ル・ペン:Frederic Legrand – COMEO / Shutterstock.com