ジョージ・ソロスはガーディアン紙への投書で何を語りたかったのか?

著名な投資家ジョージ・ソロスが英国の新聞ガーディアンに、ブリグジット(英国のEU離脱)に関する彼の意見を投書しました。

ソロスは「英国民は離脱に伴う痛みを、軽く考えすぎている」としています。そして「離脱が決まれば、ポンドは1992年に英国がERM(ヨーロピアン・エクスチェンジレート・メカニズム=共通通貨ユーロの前身)を脱退したときの下げ幅(-15%)より大きく下落すると予想する」と述べています。

その場合、「1ポンドの対ドルでの価値は1ユーロの対ドルでの価値とほぼ等しくなり、皮肉にも離脱に票を投じることで、通貨の価値という観点からはポンドがユーロの仲間入りしてしまう」としています。

離脱派の中には、ポンドの下落は英国の競争力を取り戻すことを意味するので、健全であると考えている人がいますが、ジョージ・ソロスは「無理な水準に無理矢理ポンドを維持しようと試みた1992年のデバリュエーションと、今回のポンドの下落では本質的に異なる」と指摘しています。

当時イングランド銀行は政策金利を10%以上に吊り上げることでポンドを防衛しようとしていました。だからERMからの脱落が決まると、すみやかに大胆な利下げを行うことで景気後退を防ぐことができました。

しかし「今回はすでに政策金利はとても低い水準にあるので、イングランド銀行が繰り出せる金利政策の余地は限られている」というわけです。

ブリグジットのシナリオでは英国の住宅価格は急落すると思われるので、住宅ローンを貸している銀行の経営は不健全になると思われます。

1992年に比べて現在のイギリスの経常赤字幅は遥かに大きいので、その帳尻合わせは海外からの投資家の資本に依存する体質になっています。

英国の経常収支(GDPの%、IMF)

ジョージ・ソロスは「1992年のデバリュエーションでは海外の投資家が英国の不動産を買い漁り、さらに製造業の拠点をイギリスに置こうと考えた。しかし今回英国がEUを離脱すると英国からEUへの輸出が出来なくなるリスクがあるので、投資家は慌ててイギリスの製造業拠点をEU域内へと移すだろう」と指摘しています。

折角ポンド安になっても、関税交渉が成立するまでは不透明感が残るため輸出競争力が回復する保証はありません。

従って、「今回、英国がEUを離脱し、ポンドが急落すると、それは輸入物価の高騰を招き、イギリス国民の実質的な生活水準の下落を招くだけで、得をするのは投機筋だけだ」というわけです。