NY市場をかく乱したショートVIX型ETFとは?

ショートVIX型ETFが下げを増幅

2月5日(月)、ダウ工業株価平均指数が一時-1500ポイントの下げを演じました。下げを加速するのに一役買ったのが「ショートVIX型ETF」だったと言われます。
そこで今日はこの商品を説明したいと思います。

ショートVIX型ETF

まずその説明に入る前に断っておきますが、ETF(上場型投信)の大半は、しっかりと設計された、きわめて信頼度の高い商品です。

ただ、近年、ETFの種類が増えて来るにつれて、いろいろ奇抜な商品も企画されるようになってきました。今日説明するショートVIX型ETFも、あまり感心しない、不親切な欠陥商品だと私は考えています。
だから全てのETFが怖い商品だと言う風に誤解しないで下さい。

まずショートとは「空売り」という意味です

つぎにVIXとはデリバティブ取引所のひとつ、CBOEによって考案された、株式市場のボラティリティーを表す指数です。ボラティリティーとは「市場のブレ」のことです。この指数が大きくなればなるほど「市場が荒れている」ことを示します。

さて、VIX指数はS&P500の株価指数オプションの取引状況から、市場参加者が、向こう30日のボラティリティーをどう考えているかを逆算し、指数化したものです。将来の市場の荒れに対する投資家の期待を反映することから、俗に「恐怖指数」と呼ばれることもあります。

するとショートVIX型ETFは「マーケットの荒れが少ないという方向に賭けるETFと理解することが出来ます。

代表的なショートVIX型ETFにはベロシティシェアーズ・デイリー・インバースVIXフューチャーズ・ショートタームETN(ティッカーシンボル:XIV)とプロシェアーズ・ショートVIXショートターム・フューチャーズ(ティッカーシンボル:SVXY)があります。
このうち前者はクレディスイスが出しており、後者はインベスコのプロシェアーズ部門が出しています。

商品設計

これらの商品は、いずれも先物に依拠した商品設計となっています。先物取引では限月というものがあり、期日が到来するとそのコントラクトの取引が終了します。すると継続性を持たせるためには先物コントラクトの「乗り換え」という作業をする必要があります。この「乗り換え」にはコストがかかるため、その分、自然にファンドの純資産が目減りする現象が起きます。

特にコンタンゴと呼ばれる現象が起きると、「乗り換え」による機会損失は一層大きくなります。コンタンゴとは、いろいろな限月のある先物のうち、期近、すなわち期限切れが近いものほど価格が低く、期先、すなわち期限到来がずっと先のものほど価格が高いような状態を指します。

VIXをロング、すなわち指数の上昇に賭けるETFの場合、コンタンゴ現象はとりわけパフォーマンスの消耗を加速します。逆にVIXをショートする商品の場合、コンタンゴ現象は有利に働きます。

今回、問題を引き起こしたショートVIX型ETFが去年、大人気を博した理由は、コンタンゴ現象により「毎日小さく勝つ」ことが出来たからです。

なぜショートVIX型ETFは一瞬にして純資産を溶かしたか?

それではなぜショートVIX型ETFは一瞬にして純資産を溶かしたのでしょうか?

これは災害をイメージして頂くとわかりやすいと思います。いま100年に一回の割合で大洪水に見舞われる住宅地があるとします。すると普段は大洪水は来ないわけですから、洪水が来ない一日、また一日は、「保険を売る側」の立場の人は保険加入者から保険料を受け取るので、得をします。

しかし、ある日ハリケーンが襲来して大洪水が起きたら、保険金を払い出さなければいけないので、これまで蓄えた小さな「勝ち」の積み重ねを一度に吹き飛ばしてしまうのです。2月5日のニューヨーク市場で起きた事は、簡単に言えばそういうことです。

特に前述のベロシティシェアーズ・デイリー・インバースVIXフューチャーズ・ショートタームETNの場合、ETFではなくETNだったことも重要だと思います。ETNとは「エクスチェンジ・トレーデッド・ノート」の略です。ノート(Notes)とは「約束手形」のような債務です。具体的にはその約束手形を振り出す金融機関(今回の場合はクレディスイス)が「約束の履行を自分が保証します」という形で取引の相手方になるのです。

ベロシティシェアーズ・デイリー・インバースVIXフューチャーズ・ショートタームETNの目論見書では、「純資産が大きく毀損した場合、クレディスイスの一方的な判断でこのETNを上場廃止できる」という規定があります。今回、実際にこのETNの純資産がほぼゼロに近づいたため、クレディスイスはこのETNの上場廃止を決断しました。

マーケットへの影響

VIXは市場が荒れた時にてっとりばやくヘッジする方法としてポピュラーです。また機関投資家の運用戦略の多くが、VIXが大きく動いた場合、自動的にポジションを落とすような方針を採用しています。それらのことから、VIXが動き始めるとそれが更にポジションの処分を誘発し、連鎖反応的に売りが広がる傾向があります。2月5日に、最初は些細な動きに過ぎなかったマーケットのブレが、急速にとんでもない急落になったのは、そのような理由によります。

今後の予想

今回、VIXに依拠した商品が相場の乱高下に一役買ったことで機関投資家は、いわばオートパイロットから手動運転に切り替えています。なぜなら自動では、いちばん売ってはいけない時に安値を叩いてしまうリスクがあるからです。したがって2月5日のようなことは今後しばらくの間、もう起きないと思います。